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哲学的な何か、あと数学とか

哲学的な何か、あと数学とか

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要約

ゲーテルの不完全性定理や、複数の公理体系があり得るというヒルベルトの提唱など、哲学に影響を与えた部分は厚めに語られるが、基本的には「フェルマーの最終定理」にまつわる数学史の話。

「n≧3 のとき xⁿ + yⁿ = zⁿ を満たす自然数 x、 y、 z は存在しない」
というフェルマーの最終定理の証明に憑りつかれた数学者たちの物語。

17世紀のフランスで生まれたフェルマーの本職は法律家で数学者としてはアマチュアだったが、同時代の数学者を凌ぐ実力を持っていた。フェルマーの最終定理を証明したと書き残したが、その内容は残さないまま死んでしまった。その定理が彼の息子が出版した本に記され、後世の数学者たちへの挑戦となった。

フェルマーの死から100年が過ぎたころ、オイラーは n=4の場合と n=3 の場合について成り立つことを証明した。またその倍数についても成り立つことが分かり「nが素数のときにフェルマーの最終定理が成り立つことが証明できればいい」ということを明らかにした。

更に数十年が過ぎ、フランスのソフィーは「素数とフェルマーの最終定理の関係」について研究を重ね、その成果を受けて n=5、n=7 のときも成り立つことが証明された。

その後、ラメとコーシーが「まもなくフェルマーの最終定理の証明が完了する」と言いお互いに競っていたが、クンマーが「ラメとコーシーは手法には致命的な欠陥がある」と批判する。ラメとコーシーは虚数を取り入れていたため素数の一位性が成り立たず、その解決には「理想の素数」という考え方を導入する必要があると訴えたが、完全な証明には至らなかった。

その後、ゲーテルが「数学体系の中にはその数学体系では証明不可能な事柄があること」を証明した。これを受けフェルマーの最終定理も証明不可能なのではないか、という見方も広がった。

フェルマーの最終定理への取り組みとは別に、志村と谷山は「すべての楕円曲線はモジュラーである」という予想を立てた。
後にフライがフェルマーの最終定理の方程式は楕円方程式に変換でき、フェルマーの最終定理を偽とすると、志村-谷山予想が成り立たないことから「志村-谷山予想を証明することが、フェルマーの最終定理の証明になる」という道筋をしめした。

そののち、アンドリュー・ワイルズは「コリヴァン-フラッハ法」を駆使して楕円方程式をパターン分けし、苦戦した最後のパターンも「イデアル論」を適用することで証明し「フェルマーの最終定理を証明した」として講演会で発表した。
論文の査読で問題が見つかったが「岩澤理論」を適用し最後の穴を埋めた。

感想・考察

世界をデザインした何者かの意図を読み解くのが哲学であるなら、数学は間違いなく哲学の一形態だと言えるだろう。

例えば 本書で紹介されていた 1/2² + 1/3² + 1/3² + 1/4²+‥‥ = π²/6 という数式はとても興味深い。円とは何の関係もない数字が 円周率π と繋がってくるのを見ると、人間が気付いていない秘密が隠されているような気がする。

こういう美的センスは飲茶さんの素晴らしさだ。
哲学関係の本とはだいぶ切り口が違うけれど「どこに興味を感じ何を美しいと思うか」という部分に鋭さがあって、それを分かりやすく伝える力がある。
やっぱり凄い作者さんだ。

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