ロートケプシェン、こっちにおいで
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あらすじ
「午前零時のサンドリヨン」に続く酉乃初シリーズ第2弾。女子高生マジシャンが学校で起きる不思議な出来事の謎を解いていく。
今作は各短編の中でRed Back と Blue Back の二つの視点が重ねられる構成になっている。
アウトオブサイトじゃ伝わらない
Red Back
女子高生のトモは女子グループのなかで上手く立ち回っていた。だがある日、グループのリーダー格カッキーが、トモの小学生時代からの友人ユカを「ハブろう」というのに異を唱えて微妙な雰囲気になってしまう。
Blue Back
前作のラストで須永君は酉乃初に告白したが、そのまま冬休みに突入し関係が微妙なままで落ち込んでいた。
そんな時中学時代からの友人である織田あかりに誘われ、先輩たちと一緒にカラオケで発散する。カラオケの後に入ったマクドナルドでも元気に話していた織田だったが、トイレに立って戻ってきてから急に落ち込み、泣き出して立ち去ってしまった。
織田が急に落ち込んだ理由が分からず戸惑った須永は、酉乃がマジシャンとしてバイトするバー「サンドリヨン」にいき、彼女に相談した。
ひとりよがりのデリュージョン
Red Back
ユカをかばったことからグループ内で浮いてまったトモ。物語を描くのが好きなトモは、かつてユカ一人だけのためにストーリーを練っていたことを思い出す。
だがカッキーたちが自分の書いた物語をけなし、ユカが黙っているのをみて怒りに震えてしまう。彼女は突然黒板に向かい「赤ずきんは、狼に食べられた」と書き残し、それから学校へ来なくなってしまう。
Blue Back
須永は男友達から「水着写真集」をこっそり借りた。封筒に入れて運んでいたところ文芸部の笹本さんとぶつかり、後で封筒が入違っていることに気が付いた。
何とか写真集を取り戻そうとしたが隙が無く、生徒会で開封されるという絶体絶命のピンチを迎えたが、何故か中身は文芸部発行の冊子に入れ替っていた。
笹本さんには中身を入れ替える時間はなかったはずなのに、いったいどうして変わっていたのか。須永は「水着写真集」というところをぼかして酉乃に相談する。
恋のおまじないチンク・ア・チンク
Red Back
学校へ行けなくなったトモは制服姿のままで街をさまよう。
中学時代にいじめられていた男の子のことや、彼をかばってさらにひどいいじめにあった女子のことを思い出し「私は狼に食べられてしまった」のだと思う。
Blue Back
バレンタインデーの土曜日、学年集会で教室から離れていた間にチョコレートが集められ教卓の上に積み上げられていた。
自分のものだと名乗り出る人がいなかったチョコの持ち主を探し、須永や織田たちは学年中の教室を巡っていた。
「誰が何の目的でチョコを集めたのか」という謎を口実に、須永は酉乃に会いに行った。
スペルバウンドに気をつけて
Red Back
学校に行けず街をさまよっていたトモは、知り合いのケーキ屋と会い、辛い思いを打ち明けた。彼女は「トモちゃんが本当に望んでいる後悔しない道を歩むべきだという」
トモの願いは「ユカとまた一緒にいたい」ということだった。
Blue Back
須永の友人が須永が通う高校の「カミジョウアカネ」に惚れ、彼女の連絡先を知りたいと頼み込んできた。
「カミジョウアカネ」というのは井上トモコが書いている小説の主人公であることに気づくが、井上は黒板に「赤ずきんは、狼に食べられた」と書き、その後学校に来ていないとことが分かった。
須永の友人は学校帰りの井上さんをみつけ話すことができた、というがその期間も井上は登校していないはずだった。
彼が見たのはいったい誰だったのか
ひびくリンキング・リング
最終話ではRedとBlueが重なる。
トモはユカに謝りたいと思った。携帯を変え連絡先が分からなくなってしまっていた。無力感にさいなまれトモは走った。
酉乃と須永は、井上の出席日数が足りず明日登校しないと留年が確定するという話を聞いた。井上の連絡先が分からない中、何とかして今日中に連絡をつけるべく、須永も走った。
ネタバレ感想
もろにネタバレするので、未読の方はご遠慮ください。
叙述トリックの使われ方に鳥肌が立った。
ミステリのトリックは普通「犯人が探偵役を騙す」ために使われるが、叙述トリックは「作者が読者を騙す」ために使われる。
ラストで急に物語の見え方が変わるような驚きが、叙述トリックの面白さだ。
この作品の叙述トリックは、あざやかではないかもしれない。
でもそれが、ただ単に「驚かすため」ではなく、「メッセージを深めるため」に使われている。
快活でクラスの誰とも良好な関係を築いている「織田」と、好きなことを好きと言えず人間関係に苦しんでいる「トモ」が同一人物だと分かったとき、「仮面をつけ続けなければならない息苦しさ」が胸に迫ってくる。
一方で2話目では、ある場面ではいじめを主導しているカッキーが、他の場面では「自分が嫌われること」を極端に恐れている様子をみせている。この話でもトリックの肝が「嫌われるのを怖れる心」にある。
マジシャンは観客が楽しんでいることを信頼しないと思い切って演じることができない。「タネが分かっているのに優しいから楽しんでいるふりをしているのかも」と考えると委縮してしまう。
同じように、相手の反応を素直に信用できなければ、相手に踏み込んで行くことができない。相手を傷つけないように、自分が傷つかないように、自分を隠し息苦しさが増していく。
前編を通して「相手を信じ、恐れずに一歩踏み出せ」という強いメッセージを感じた。
同じ学園日常系ミステリのカテゴリでいうと、米澤穂信さんの古典部シリーズのような老練さはなく、むしろガッツリと青臭い。その勢いが私は大好きだった。
もうこのシリーズの続編は出ないのだろうか。
ぜひ続きが読みたい。