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夏の終わりに君が死ねば完璧だったから

夏の終わりに君が死ねば完璧だったから

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あらすじ

江都日向は、山に囲まれた小さな集落 昴台で暮らす 中学3年生の男子。
昴台には「多発性金化金繊維異形成症」の患者を収容するためのサナトリウムがあった。その病気は俗に「金塊病」とも呼ばれ、体中の組織が「金」になりやがて死んでしまう、未だ治療法が見つかっていない不治の病気だった。

日向がサナトリウムの近くで赤いマフラーが落ちるのを見つけた。それを届けるため日向は病室に向かい、金塊病を患う21歳の女性 都村弥子と出会う。

弥子は日向に「自分の死後、金となった3億円相当の私の体を譲る」と言い「一度でも私にチェッカーで勝つこと」をその条件とした。

日向は突然の申し出に戸惑い、また弥子が日向の家庭環境が恵まれないことを知った上で申し出たことを聞き、最初は強い反感を覚えた。

だが見舞いに来る友人も親類もいない弥子を見て、日向は定期的にサナトリウムに通い始める。
弥子はチェッカーが極めて強く、日向が何度勝負してもかなわない。弥子がチェッカーを好むのは「将棋にもチェスにもないものが、チェッカーにはあるから」といい、それがいったい何なのか日向に謎を問いかけた。やがて日向は、彼の前では強がりながら闘病に苦しむ弥子の姿に、徐々に惹かれていった。

「金塊病の女性が恵まれない男子中学生に3億円相当の自分の死体を贈る」という話が雑誌に載り、サナトリウムは取材陣に囲まれてしまった。

弥子と日向は「自分の死、愛する人の死に値段が付けられてしまうということ」と向き合い、自分の思いが本物であることを証明しようとしていく。

感想・考察

人が人を愛するとき、愛する気持ちの中に「何らかの打算」があることは避けられない。
愛するという感情は、相手の収入や容姿だったり、性欲だったり、色々な打算も含んで、ときには独占欲や支配欲とも重なったりする。

ある程度年齢を重ねると、ごちゃごちゃして打算にまみれた愛情こそが、生きている実感に繋がると思えてくるところもある。人間の心は動的で複雑で非合理なものだ。

「完全解」を求める若さは美しいと思う。でも世界はもっと複雑なのだ。

その時に二人が心中していれば、二人は完璧に幸せだったのかもしれない。
でも、彼は生き残って完全解の無い世界で、足掻きながら生きることを選んだ。
素晴らしい終わり方だったと思う。

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