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吉祥寺の朝日奈くん

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あらすじ

5つの恋愛短編小説。ミステリ的な仕掛けも挟みながら「恋が芽生える瞬間」を丁寧に描く。

  • 交換日記はじめました!

女子高生の和泉遥 と圭太の交換日記から話が始まる。

交換日記のノートは遥の恋敵の手に渡り、遥の妹の手にも渡る。さらに数年を経て偶然ノートを入手した 山田康志が自分の日記を書きつける。

さまざまな人の手を渡りながら、日記は綴られていく。

  • ラクガキをめぐる冒険

桜井千春は、実家にあったマジックペンを見て中学時代の出来事を思い出す。

不漁グループと対立していた同級生の森アキラの机にラクガキされ、次の日から彼は登校しなくなってしまった。
小学校時代にいじめられた経験を持つ千春は義憤に駆られ、仕返しとして不良たちの机にラクガキするため、夜中学校に忍び込む。
ところがそこには同級生の遠山真之介もいた。彼も同じ目的できたのだと言う。「不良グループの仕業とは断言できない」という真之介の言葉を受け、二人はクラス全員の机にラクガキした。このことは一つの事件として、クラスメイトたちの心に残っていた。

千春は真之介を訪ねることにした。

  • 三角形はこわさないでおく

鷲津廉太郎と白鳥ツトムは同じ高校に通う友人同士だった。

クールな美形であるツトムは女子に人気があったが、女子に興味がなくあしらっていた。
ところがある激しい雨の日、公園にいた猫が心配で見に来たツトムは、同じ目的で来ていたクラスメイトの小山内琴美を見つける。そのときからツトムは琴美に恋に落ちていく。
廉太郎はツトムの恋を応援しようとするが、彼自身も徐々に琴美に惹かれていった。

三角形の一辺の長さが、他の二辺の長さの和より大きければ三角形は壊れてしまう。

  • うるさいおなか

女子高生の高山さんは、ところ構わず鳴ってしまう「おなかの音」にコンプレックスを抱いていた。

憧れの先輩と良い関係になりかけても、静かな状況でおなかの音が響くことを怖れた高山は二人きりになることを避け、結局関係は実らなかった。
そんなとき、高山のクラスメート春日井くんが彼女に接近してくる。サンプリング音源から音楽を作っている春日井は、彼女のおなかの音がインスピレーションを与えてくれるという。

変態王はお父さんだった。

  • 吉祥寺の朝日奈くん

吉祥寺に住む朝日奈ヒナタは、喫茶店の美人店員 山田真野 にアプローチしていた。

山田は、既婚者であり3歳の娘もいることを明かして朝日奈の誘いを断るが、メールアドレスを交換しゆっくりと親しくなっていった。そのうち、娘と3人で井之頭公園で遊んだり、山田の夫に娘を預かってもらって芝居を見に行くようになる。
ある日、夫と喧嘩した山田が娘を連れて朝日奈のアパートにやってくる。翌朝朝日奈は彼女に「玄関から外に出るな」と言った。

いつまでも残るものは、信仰と希望と愛。一番優れているのは愛。

感想・考察

どの話も面白い。

ミステリ的な仕掛けが効いていたり、巧みな設定だったりというもの面白いが、なにより「甘酸っぱい恋の芽生え」の心理描写が巧みで胸をくすぐる。

交換日記はじめました!」は、数年かけてそれぞれの思いを繋いでいったドラマが魅力的で、その中で主人公の成長が感じられるのも素晴らしい。最後には「あなたに向けて書きました」という締めに感動させられた。

ラクガキをめぐる冒険」は、ミステリ色が強くすっきりと読める。

三角形はこわさないでおく」も好きな話だ。
三人がそれぞれ相手を思いやりながら三角関係を維持していく様子には胸がくすぐったくなるが、甘酸っぱさが心地いい。

うるさいおなか」も「よく思いつくなぁ」という設定の巧みさが面白い。

表題作の「吉祥の朝日奈くん」も素晴らしい。
「嘘から始まる愛」だからこそ「真実の愛」に繋がっていくこともあるのだと思う。

中田永一さんの作品をもっと読んでみよう。
別名義乙一さんの作品も含めて。


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