文芸オタクの私が教える バズる文章教室
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要約
的確に伝えるための文章技術ではなく、文章を楽しんでもらうため「文芸的目線」の工夫を解説する本。達人たちの文章を引用しながら分析し、ポイントを抽出している。
いくつか心に残った「モデル」を紹介していく。
本書では実際の文章が引用され分かりやすく説明されているので、興味があればぜひ原書を参照していただきたい。
- 良心的釣りモデル
最初に引っ掛かりのある「意味不明」な単語/文を投入し、後から説明していく。大事な部分を隠されると見たくなる誘引力を利用する。
例として「合宿ではポロリもあるよ!」と言っておいて、後から「ポロリ」が「オフィシャルには言えないことを口を滑らす」意味だと説明するような文章。
- 質問一般化モデル
いきなり難しい問いかけをしても興味を持ってもらえない。「なんとなく答えられそうな問い」を投げかけられると考えたくなる。
- 嵐の前モデル
ごく日常的な話から入ってから非日常へ展開させる。自分と似たような日常は心地よく入り込みやすい。そこからのギャップが面白さを生む。
- 5音、9音 ぶつ切りモデル
文章のリズムを意識する。音の強弱、高低、長短など一定のパターンが繰り返し現れ、個々のパターンの時間がほぼ等しいとき、リズムが現れる。
村上春樹氏の文章を解析すると、勢いがつくところでは、文章の切れ目が5音、9音前後で揃っていたりする。
- 曖昧共感モデル
何かを正確に伝えるための文章であればはっきり言い切ることが必要だが、シェアしたくなる文章には「思う」「感じる」など曖昧さが残る。
上から目線でなく「わかんないけど、こうかもなぁ」とためらう姿に、かえって親近感を覚えたり、応援したくなったりする。
- 名詞止めモデル
「です」「なのだ」といった語尾は意外と削れる。適切なレベルで体言止めを使うとイメージが伝わりやすくなる。
「私が好きなものはアニメですね。それからパンケーキも好きです」→「私が好きなものはアニメ。それからパンケーキ」とすることで、イメージがかえって鮮明になる。
- 仮名8割モデル
かな-漢字の割合で文章のイメージをコントロールできる。漢字の方が一見して理解でき速く読める。漢字ばかり続くとすんなり読める分、引っ掛かりが無くて頭に残りにくくなることもある。
漢字で書けるところをあえて「ひらがな」にすることで、少し遅いテンポで読ませることができる。
- 硬質筆致モデル
心の底で感じていることは、たいてい、その場では言葉として頭に浮かばない。本当に思っていることは、実はみんな言葉にしないのだから、感情を直接書かずただ状況を書いた方が読み手の想像を掻き立てることがある。
- 接続詞省略モデル
接続詞は円滑に読ませるため必要だが、多すぎると文章が「鈍くさく」なる。「しかし」などの逆接は無くすと意味が通じなくなるが、それ以外は意外と省ける。
接続詞の使用を我慢して、ここぞというところでだけ使うと、読み手に印象付けることができる。
- 壁ドンモデル
学校のテストじゃないのだから「ですます調」「である調」を統一することは大事ではない。会話では伝える相手や状況によって言い方を変えている。
文章でも、いきなり口語文を入れるなど文体を切り替えることによって「感情の見せ方」をコントロールできる。
- 人柄調節モデル
読点の打ち方に「唯一の正解」は無く書き手に委ねられている。書き手がそれぞれ読みやすいよう調節する必要がある。
読点が少ないとテンポが速まり、冷静に報告するような感じが出るので、ビジネス文書などでは好ましいかもしれない。
一方、読点が多いほどテンポが落ち、親身に話しかけるような効果を生むことができる。
- 妄想上昇モデル
美味しいお店の紹介を、全然期待できないイメージで書き始めるなど、先に反対のイメージを植え付けておくと、読み手が受ける印象が強くなる。
「てっきりそうだと思っていたけど、実は全然違ったオチ」の破壊力は抜群。
- 結末省略モデル
契約書などのビジネス文書であれば、誰が読んでも理解できるようしっかり説明する必要がある。
だが詳し過ぎる説明は「くどく」感じてしまう。「分かる人に分かればいい」と思える部分は書かずに余白を残すと、粋な文章になる。
例として落語の小噺が紹介されている。
「ケチな男は、いつもウナギの匂いをおかずにご飯を食べてたんだって」
「さらにケチなウナギ屋は、匂い嗅ぎ代を取りに来た」
「男はお金を取り出して、ジャラジャラという音をウナギ屋に聞かせたってさ」
と、ここで終わるから粋な感じになる。
「ウナギ屋が『匂い』という感覚に課金したことに対抗し、男は『音』に課金したのだ!」とか書くと、途端にダサくなる。
- 同意先行モデル
「あるある」から始めて共感を得る。
「そうそう、それが知りたかった」というような情報であれば読んでもらえる。「読み手にとっての面白さとは何か」を考えて書き始めた方が上手くいく。
- フォロー先行モデル
想定される反論にたいし、先回りしてフォローしておく。反論を認めて受け入れると説得されやすい。
- 感情一般化モデル
自分独自の具体的エピソードに共感してもらうために「みんなの感情」へ訴えかける。雑談が「共通の話題」になる。
例として有川浩氏のエッセイを紹介している。
「バナナを凍らせたアイスキャンディーが子供に好評だったら、母は数か月に渡って連日のようにアイスバナナをおやつにした。結果私はバナナに飽きた」
という個人的エピソードを詳細に述べ、その後で
「なんでお母さんという生き物は、こういうときやり過ぎるのか」と、一般的な話につなげている。
- 仮名強調モデル
文章は目で見るもの。いち早く理解させたいときは視覚的に目立つカタカナを使うと有効。目を向けて欲しいポイントをあえてカタカナで表記する。
- 共通言語投入モデル
自分の常識が他人の常識でもあるとは限らないが、無自覚に「読み手を選ぶ表現」をしてしまうこともある。
万人に共通するネタと個人的な話をつなげることで、誰も置き去りにしない文章になる。
- 一文外しモデル
突然文脈から外れた「変なこと」を書くと「あれは一体なんだったんだ」という引っ掛かりをつくることができる。
唐突な言葉をはさみ、あえて説明せずフォローもしない。一見無意味そうなものが深みを持たせてくれる。
- 余韻増幅モデル
最後の一文を情景描写にすることで余韻を残すことができる。
「木枯らしの風」など冷たい言葉で絞めれば切ない余韻を与えられるし、「暖炉の火」であれば暖かい印象にもなる。
情景描写で終わらせることで余韻を残し、印象をコントロールできる。
感想
私などは、文章を読んでいて「面白いな、きれいだな」と思うことがあっても、ただ流してしまい文章力向上に活かせていない。
著者は「こういう効果が生まれるのはなぜか」としっかり分析している。主観的な「文章の面白さ」を、再現可能な「サイエンス」に昇華しているのはすごい。
「バズる」ためには文章だけじゃない様々な要素が必要だと思うけれど、まずは読み手に「面白い」と思ってもらうことが大切なのは間違いない。
「これは使える」「真似してみよう」というモデルがたくさんあった。
さっそく試してみたくなる。