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ヒトリシズカ

ヒトリシズカ

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あらすじ

静加という 「悪女」の女性の生き様を描くピカレスク小説。
6つの連作短編で、彼女の足跡を追う。

  • 闇一重

アパートの一室で暴力団員の男が殺された。

捜査の結果、殺された男はクスリと暴力で女性を囲い込み、自室で管理売春を行っていたことが判明した。彼のせいで自殺した女子高生の兄が容疑者として捜査線上に浮かび上がり、本人の自供と確かな物証から彼の犯行であると判断された。

だが、捜査に関わった木崎巡査部長は、被害者の銃創に不自然な点があったことに引っかかりを感じていた。

  • 蛍蜘蛛

暴走族上がりで自動車の不正改造を請け負っていた男が殺された。

被害者と折り合いの悪かった会社同僚の動機が濃厚で、アリバイを証明するための女性との連絡もつかなかったため容疑をかけられていた。

だがその被害者は、山岸巡査部長が女子高生から相談を受けていたストーカーと人相がそっくりだった。

  • 腐屍蝶

探偵青木は、警察に在職していたとき恩を受けた伊東警視から、行方不明になった中学生の娘、静加を探して欲しいと依頼を受ける。

青木の調査が静加に迫りつつあった頃、彼女の遺体が発見されたという連絡を受ける。着衣や所持品から静加だと判断されたが、自殺と認定されたため厳密な解剖検査は行われていなかった。虫歯の状況などから人物同定に疑問を感じた青木は調査を継続した。

そんな時、とある不動産会社社長の妻を名乗る女性が、青木に夫の浮気調査の依頼をしてくる。

  • 罪時雨

伊東警視がまだ独身だったときの話。

伊東が通っていた理髪店の店員 深雪から、同棲している男性のDVに苦しんでいるとの相談を受ける。
伊東は深雪に鍵を交換し男を締め出すよう伝えた。男が戻る時間に立ち合いそこで相手を殴り飛ばしてしまう。

後日、深雪の連れ子の静加が一人で在宅しているとき、男が訪れ事件が起きた。

  • 死舞盃

定年近くの巡査部長矢部とヤクザ絡みの事件を扱う警部補鮎川の二人は、暴力団同士の抗争事件の捜査に当たっていた。

暴力団のフロント企業であった不動産会社の社長宅が、対立組織に襲撃され双方から多くの死者がでていた。
だが、双方の組員の銃創に不審な点があり、さらに8歳になる社長の娘が行方不明になるなど、暴力団の抗争にしては不可解な点が多かった。

  • 独静加

これまでの事件から十数年後の話。

夫と離婚し娘と会えなくなった母は、運動会の日にこっそり娘の姿を見に来ていた。その母をマークし学校で待機していた警察は、彼女を見つけ確保した。

母親が捕まるのを見た娘は慌てて道に飛び出し車と衝突してしまう。
母は娘の安否を気遣った。

感想

静加という女性の8歳から31歳までの生き様が凄まじい。
いわゆる「悪女」を描いたピカレスク小説になるのだろうが「胸くそ悪い邪悪さ」は感じなかった。

自分自身と自分にとって大切な人を守るためには手段を選ばない。
人を欺くことも暴力の行使にも一切ためらいがない。
ためらいのなさは圧倒的な強さになる。そして非常に残忍だともいえる。

だが、人を傷つけること自体を楽しむわけでも、他人をコントロールする全能感に溺れるわけでもなく、ただ自分と大切な人を守るため粛々と動いている。

社会性の面では幼稚で不器用で、感情もどこか壊れている。
だけれどもその真っ直ぐさが、ある種の魅力を放っている。


本作のもう一方の主役は警察官や探偵たちだ。

あざやかな活躍をする刑事や探偵ではなく、キャリアの先が見えてしまったオジサン刑事だとか、退職を余儀なくされた元警察官だとか、どちらかというと地味な冴えない男たちが語り手となる。

「自分の人生、まあこんなもんだよね」と諦観し、やる気を出して頑張るわけでもなく、かといって自暴自棄になるわけでもなく、ぬるく、またそこそこ器用に日々を捌いていっている姿には、とても共感しやすい。

そんな彼らが、「悪女」の真っ直ぐさとぶつかって、どのような行動をとるのか。少しだけ勇気をもらえた気がした。

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