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涼宮ハルヒの暴走

涼宮ハルヒの暴走

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あらすじ

涼宮ハルヒシリーズ第5弾。
高校一年の夏から冬にかけてSOS団の活動を描くの3つの短編集。

  • エンドレスエイト

夏休み終わりの二週間、涼宮ハルヒは夏休みにやりたいことのリストを作った。
夏季合宿、プール、盆踊り、花火大会、バイト、天体観測等々、SOS団員たちと精力的にスケジュールをこなしていく。
高校1年の夏休みを満期する中、キョンたちは奇妙な既視感を感じていた。

ある夜、朝比奈みくるが「未来へ戻れなくなった」ことに気づき、ハルヒ以外のSOS団員に相談する。

「何かをやり残した感」の消えないハルヒは、夏休みが終わることを拒否し、無意識に8月最後の繰り返していた。そのループに捉われたSOS団員はそこから未来の世界に進むことができなくなっていた。
長門有希はループを認識していて、今回は「15,498回目」の2週間だという。

夏休みの最終日、再び2週間遡る直前に、キョンは「やり残したこと」を済ませようと提案した。

  • 射手座の日

コンピュータ研究部は、かつてハルヒの策略にはめられ、SOS団に最新鋭のパソコンを奪われていた。

コンピュータ研は、自作のリアルタイム・シミュレーション「The Days of Sagitarius 3」での対戦を申し込む。
コンピュータ研が勝てばパソコンの返還、SOS団が勝てば追加でPCの進呈という条件で、ゲーム内容を知り尽くしているコンピュータ研が間違いなく有利だった。

「情報統合思念体のヒューマノイド・インターフェイス」である長門には、本気になればゲームバランスをひっくり返すこともできたが、キョンから「人間ワザを超えた情報操作」は禁止されていた。

対戦当日、コンピュータ研の卓越したプレイスキルの前にSOS団は敗北直前まで追い込まれる。だが、俄然やる気を出した長門が「人間ワザの範囲内」で圧倒的な活躍を見せ、勝負を逆転させた。

  • 雪山症候群

夏休みの「絶海の孤島殺人事件」に続き、冬休みに「雪山の山荘殺人事件」の推理ゲームを企画したSOS団。
途中雪山のスキー場で遊んでいると、キョンたちは急に降り出した雪に道を見失い遭難してしまう。

スキー場の近くにいたはずが、数時間歩いてもたどり着くことができない。
一同は雪の中にたたずむ洋館を見つけ非難する。

洋館には人はいなかったが、暖房も、十分な食料も、暖かい浴場も、着替えも、彼らが望むものすべてがあった。だが建物内部での時間の流れは不均一で現実離れした現象が起き始める。長門も「情報統合思念体」との連絡が断ち切られ、徐々に消耗していくようだった。

洋館の入り口のドアには鍵が掛けられ「x – y = (D -1) – z」という数式が刻まれていた。この式が「長門が最後の力を振り絞った脱出への鍵」だった。

「クローズドサークル・ミステリ」と思わせて、実は「脱出ゲーム」

感想

涼宮ハルヒシリーズは出版順と作品内の時系列がバラバラだ。
でもこの順番が、構成的には完璧で納得できるものとなっている。

本書に先立つ『涼宮ハルヒの消失』は12月18日前後の話だ。

本作の「エンドレスエイト(8月)」や「射手座の日(11月)」は、「長門有希に感情というバグが蓄積した背景」を描き、「ハルヒ消失」に繋がる流れを説明している。

また「雪山症候群(12月)」は「ハルヒの消失」直後の話で、キョンと長門、ハルヒの関係がそれぞれどう変化したのかを描き出す。

本作が『涼宮ハルヒの消失』の前日譚+後日譚として、物語世界を深めている。
上手い構成だなぁ、と思う。

個別の話としては「エンドレスエイト」が一番好きだ。

「高校生の夏休み」にやり残したことが山ほどある非リアには、胸が苦しくなる話。

個人的には、ジュブナイルの王道といわれる映画「Stand by Me」とかを見ても「失われたものへの哀愁」は感じられなかった。
でも、本作くらいベタな「日本のリア充夏休み」をみると「ああ、もう取り戻せないものがあるんだな」と悲しくなる。
1万6千回くらいはリピートしたいくらいだ。

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