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涼宮ハルヒの直観

全編が「読者への挑戦」なのか?『涼宮ハルヒの直観』

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ほぼ10年ぶりの「涼宮ハルヒシリーズ」最新作。
とはいえ2年ほど前の本なんだけど、Kindle Unlimitedの読み放題対象になってたので読んでみた。

本作には3つの話が掲載されている。

・SOS団の初詣、775,249って何の数字?『あてずっぽナンバーズ』
・悪質な学園七不思議を作らせるな『七不思議オーバータイム』
鶴屋さんがSOS団に挑む『鶴屋さんの挑戦』

の3編で、分量的にも内容的にもメインは最後の話。

『鶴屋さんの挑戦』は、メールに仕掛けられた叙述トリックを読み解く「ミステリ回」にあたる。

そして、作品世界と並行し、メタ的な仕掛けで読者に問いかけてもいるように思える。

前半ではSOS団員とミス研部員の間でミステリ談義が交わされる。その中で古今ミステリ作家による「読者への挑戦」が話題に上がるのが象徴的だ。

ストーリーの中で「鶴屋さんからSOS団」への挑戦がくることを暗示しているだけでなく、メタ的に「これ、作者から読者への挑戦状だよん」と煽られてる気がする。結構露骨に。

そして謎解きの対象はこの話内部に留まらず「涼宮ハルヒシリーズ」全体に広がっている。全作を覆う壮大な叙述トリックに「そろそろ気づいた?」といって、風呂敷をたたみ始めているのではないだろうか。

というわけで、本編前半のミステリ談義と、後半の鶴屋さんが仕掛けた叙述トリックをヒントに、シリーズ全体に係るトリックの存在について考えてみたいと思う。


ポイント1:「語り手=作者」のメタ構成

ミステリ談義の中で、「読者への挑戦」でメタ視点が入っても違和感がないように、探偵=語り手が作者自身の名前になっているケースがあると述べている。

で、このシリーズの語り手は「キョン」といういかにも不自然なニックネームがあるだけで、本名は不明だ。「語り手=作者」パターンがあり得る、と見ることもできるだろう。

さらに、語り手に向かって「キョン」と直接呼びかけているのは、ほぼハルヒだけ。他の登場人物が呼びかけにその名前を使う場面はほとんどない。ハルヒとその他の人物は物語内での立ち位置が違うのかな、という感じがする。

ポイント2:地の文に発言が混じる

鶴屋さんからの出題で、地の文に発言が混じっていることが解決のキーになる場面があった。

これもシリーズ全体を通して使われている「語り手の発言が地の文に混じる」語り口のの不自然さを、あえて強調しているのではないか。

地の文の内容に相手が反応していて「ああこれはキョンが言葉にして発言してたのか」と気づくパターン。

叙述トリックでは「セリフで嘘をついてもいいけど、地の文で嘘つくのはNG」というのがルール。「地の文にセリフが混じる」のは、逆から見ると「地の文全部が、語り手の言葉(考え)」という解釈もできる。「叙述トリックのルールを逃れるための仕掛け」なのだと考えることもできるのではないだろうか。


これらのポイントから考えると、

・「キョン=作者」は信頼できない語り手
地の文に見えるところも語り手の叙述で、本当のことを言っているとは限らない。

・ハルヒ以外の特殊能力は語り手の空想?
語り手とハルヒ以外のSOS団員やその一味(宇宙人とか未来人とか超能力者とか)の特殊能力は、語り手視点からだけ見えている。

・ハルヒの思考現実化能力も作者視点
考えたことを作品ないの現実に変えるハルヒの能力も物語作者の立ち位置。

・つまり 「作者=語り手(キョン)+ハルヒ」という構造?

等々の妄想が捗る。
ここまで壮大な叙述トリックはコナンの第一話に比肩する。

そろそろ長年に渡って残してきた「不自然さ」の伏線を回収してほしい。

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