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涼宮ハルヒの憤慨

作中作の考察『涼宮ハルヒの憤慨』

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あらすじ

涼宮ハルヒシリーズ第8弾。
高校1年生最後の数か月を描く2つの中編。

  • 編集長★一直線!

三学期のある日、唯一の文芸部員である長門有希が生徒会に呼び出される。
生徒会会長は「文芸部としての活動実績がまったくないので、強制活動停止とし部室も取り上げざるを得ない」と通告した。

涼宮ハルヒが結成した非公認のSOS団は文芸部室を拠点としていた。生徒会の真意は「SOS団の活動をやめさせること」にあるようだった。

憤慨するハルヒに対し、生徒会長は「文芸部の会誌を発行すること」を文芸部存続の条件とする。

挑戦を受けたハルヒは編集長となり、SOS団員+α で文芸部会誌の発行を目指す。

各団員にクジで割り当てられたジャンルは、
・長門  ⁻ 幻想ホラー
・朝日奈 – 童話
・古泉  – ミステリ
・きょん – 恋愛
だった。

  • ワンダリング・シャドウ

三学期の終業式を待つ時期、SOS団に「幽霊が出るという噂の場所を調べて欲しい」という依頼が入った。

依頼を持ち込んだのはキョンたちのクラスメート阪中。
彼女の飼い犬が散歩中絶対に近づこうとしない場所があるのだという。また彼女の周りで犬を飼っている人たちも、あるエリアを犬が恐れているらしい。そのうちの何匹かは体調を崩してしまったのだという。

SOS団は阪中と一緒に現場に赴き、犬たちが恐れるエリアの中心を割り出した。
他の犬の様子から、その場所にあった「何か」は既になくなっているようだった。

だがその翌日、阪中の飼い犬が急に体調を崩す。
長門は「珪素構造生命体共生型情報生命素子」が犬に憑りついているのだという。

考察

シリーズ8弾では、順当に時間を進めてきた。
次作移行への伏線を張り始めた感じだ。

前作くらいから各キャラクタの内面描写が深化している。
特に今作ではSOS団員たちの「作中作小説」が面白かった。
朝日奈の童話も可愛くていいが、とくに長門有希の心象風景を描いた「無題」がが面白い。

「名前のない幽霊」だった彼女は、地上に降り一瞬で消える雪を見て、その不安定な奇跡に思いを至らせる。
彼女は雪から名前をとって「名前のない幽霊」ではなくなった。
集合の中の一部でしかなかった自分は「私」を見つけた。

『無題1』と『無題2』の内容は、情報統合思念体の「道具」に過ぎなかった長門が、「時間に縛られる人間たちが生み出す奇蹟」をみて、自ら「心」を獲得していくときの内面を表しているのだろう。

一転して『無題3』には「メタな仕掛け」の匂いがする。
涼宮ハルヒシリーズという作品世界が「発表会」で、作者自身が「長門の役どころ」を定め切れていないのではないだろうか。

キョンが暗喩を読み解いた通り「棺桶に腰掛ける男」が古泉で「白い布を被ったオバケの少女」が朝日奈だとすると、
古泉は「長門の意図を知りつつ妨害する立場」で、
朝日奈は「真の姿を隠しつつ、作品舞台で舞い踊る立場」ということになる。

その中で長門には「発表することがない」
ただ最後に彼女が「黒い棺桶に帰ること」だけは決まっている。

うーん、シリーズの続きが気になってきた。
H×H レベルで進展が遅いようだが、じっくり追いかけてみよう。

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