BookLetでは、ビジネス書や小説の1000文字程度のオリジナルレビューを掲載しています。

護られなかった者たちへ

護られなかった者たちへ

こちらで購入可能

あらすじ

人格者として評判だった 保険福祉事務所の三雲が殺害された。
死因は、手足を縛られ放置されての「餓死」だった。

数日後、県会議員の城之内の死体が発見される。
彼も拘束され小屋に監禁された状態で「餓死」していた。
彼もまた清廉潔白で評判の良い議員だった。

殺害された状況から同一犯によるものと目されたが、当初は被害者二人の関連も見えず、物証もほとんど残っていなかったことから捜査は困難を極めた。

やがて捜査一課の笘篠たちは、8年前に城之内が三雲と同じ保健福祉事務所に勤務していた時期があることに気がつく。事件の「動機」がその時期に生まれたと考えた笘篠たちは当時の状況を探っていった。

事務所職員や家族たちには「人格者」と映っていた三雲も城之内も、生活保護申請を断られた側からみると「恨み」の対象だった。
合理的な理由で申請を断ることもあれば、理不尽を感じつつ組織の理論を優先させることもあった。

8年前のトラブルを調べる中で、笘篠は、生活保護申請を断られた老女が餓死した事件に目をつけた。
老女の死が発見された直後、彼女とは血縁のない利根勝久が保健福祉事務所におとずれ、三雲と城之内に殴りかかった。その夜、利根が事務所に火をつけたことが発覚して逮捕され、懲役の実刑を受けていた。

笘篠たちは利根の足取りを追う。

利根は、三雲が殺される1週間ほど前に仮出所していた。
その後、就職先で真面目に勤務していたが、8年前に保健福祉事務所所長だった上崎の行方を知ってから姿をくらましていることが分かった。

海外渡航中の上崎が帰国する日が判明し、空港で襲撃される可能性が高いと考えた警察は、大量人員を投入して警戒態勢を敷いた。

「護られなかた者たち」のための闘いは終章を迎える。

感想

ミステリとして秀逸で、中山七里さんらしい「どんでん返し」も面白い。

だが、本作で圧倒的なのは「社会保障制度の不条理」に対する怒りのメッセージだ。

本書の最後、犯人がSNSに上げた言葉が素晴らしい。
「護られなかった人たちへ。どうか声を上げてください。
自分がこの世に一人ぼっちでいるような気になるかもしれません。でも、それは間違いです。この世は思うよりも広く、あなたのことを気にかけてくれる人が必ず存在します


また、遠島けいは
「敵を作るより見方を作っておいた方がいい。見方が多い人間は強いよ。そして強い人間にたてつこうとするやつは少ない」
と、つながりの大切さを語った。

昨今、社会保障制度を利用することへの反感が広まっているようにみえる。
貧富の差が広がっても、かつて共産主義者が唱えたように「貧者が結束して闘う」事態にはならず、貧者のレイヤー同士で争っている。
「上を目指すのは諦めた。自分より下がいると安心する」ということだろう。醜い。

たしかに社会保障制度には問題が多い。
不正受給もあれば、本当に必要なのに受給されないケースもある。
本書には社会保障制度の不条理への怒りも満ちている。

だが、問題は根深く、制度自体の改革を待っていては間に合わないこともある。

本書のメッセージの宛先は「護られない人たち」で「現行制度下でどう生きるか」を訴えているのだ。

・本当に必要ならば臆することなく救いの手を求めよう。
・人の絆を信じてみよう。
ということだ。

また、遠島けいの言葉には、人の絆を作るため大切なことが含まれている。

恩返しについて語った
「厚意とか思いやりなんてのは、一対一でやり取りするようなもんじゃないんだよ。それじゃあお中元やお歳暮と一緒。人から受けた恩は別の人間に返しな。でないと世間が狭くなるよ」
という言葉は、近視眼的な社会保障制度批判への皮肉であり、市井の人々への直接的アドバイスになっている。

ケンカをするのは良いがその後の仲直りが大事だとして
敵を作るより味方を作っておいた方がいい。味方が多い人間は強いよ。そして強い人間にたてつこうとするやつは少ない
というのも「味方作りに貪欲であれ」というわかりやすいアドバイスだ。


全世界で生産される「富」が、全世界で必要とされる「富」を、既に上回っているなら「ベーシックインカム」的な制度が最適なのかもしれない。富める者にも貧しい者にも。
判断には恣意が入る。収入・資産状況にかかわらず、無判断で全員一律に「健康で文化的な最低限度の生活」を支給してしまえばスッキリはする。
と、個人的には思う。












こちらで購入可能