静おばあちゃんと要介護探偵
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厳格であっても峻厳であっても、己の裡に確たる条理さえあれば優しさは確保できる。
やたら多作な中山七里さんの作品キャラクタの中でも、本作主人公の一人である高遠寺静が一番好きだ。
最初に『テミスの剣』でみたとき、「自分の正しさが完全ではあり得ない」ことを理解し、悩み惑いながら、判事として裁く責任を負い、凛とした態度で生きる彼女が素晴らしく魅力的に見えた。
中山さん作品には、「自分の正義」への揺るぎない信頼をもって行動力に変えるキャラクタが多い気がする。中山さんの作品世界では高遠寺静は割と異質な存在だ。
私にとっては「正義とは何か」を問い続ける姿勢が何よりかっこいい。
シリーズ前作の『静おばあちゃんにおまかせ』を読んで、高遠寺静の登場はもうないのかと思っていたけれど、こういう形で再登場してもらえたのは嬉しい。
本作では、「自分の正義」に向け突っ走るタイプの香月玄太郎とコンビを組んで探偵役となる。タイプは全く異なるが二人の持つ「正義」の方向性は割と近いように感じた。
静は別作品で最後に「困っている人を助けること、飢えている人に自分のパンを分け与えること」というシンプルな正義観に辿り着いている。
そのパンを「誰に、どうやって与えるのか」を考え始めると、功利、自由、平等 など様々な観点から様々な解釈が生まれる。静と玄太郎のアプローチが異なるように、それぞれの考え方があっていいのだと思う。
ただその行為を生み出す「動機」は、実は「困っている人を助ける」というシンプルな思いなのではないだろうか、と思っている。
高遠寺静の次回作に期待したい。
あらすじ
第1話:二人で探偵を
元判事の高遠寺静は法科大学での記念講演の講師として参加し、その打ち上げで実業家の香月玄太郎と出会う。
玄太郎は下半身が不自由で車椅子に乗っていたが、70歳を過ぎても未だ血気盛んで、静は彼の失礼な態度に辟易としていた。
突然、会場に爆発音が響く。
庭に飾られたモニュメントが爆破され、その大理石の台座ないの空洞に死体がみつかる。死体はそのモニュメントを作った彫刻家のものだった。
その彫刻家と関係のあった玄太郎は犯人を突き止めようと動き出す。
第2話:鳩の中の猫
静は投資詐欺にあったという講演会の受講者から相談を受けた。
被害者を取りまとめるため、静は町内会長の玄太郎に協力を願い出る。
最初は「投資詐欺に騙されるのは自己責任」として突き放した玄太郎だが、自分の知り合いも被害に遭っていることを知り、手のひらを返した。
第3話:邪悪の家
玄太郎の元に、認知症を患った父親が徘徊し万引きを繰り返して困っている、という男が相談に来た。
男の父は玄太郎がかつて世話になった人物で、彼が父親を粗略に扱っていることを叱責して追い払う。
静は警察で男の父が実際に万引きして取り調べを受けている場面に遭遇した。その場にやってきた玄太郎と一緒に彼を家まで送ったところ、二人は彼の家に不可解な点を見つける。
第4話:菅田荘の怪事件
静は数十年ぶりに会った女学校時代の友人と話をしたが、その数日後に一酸化炭素中毒で友人夫婦が亡くなってしまう。
警察は事件、事故の両面で調査を進め、隣町で連続して発生していたガス漏れ事故との関連に着目した。
第5話:白昼の悪童
玄太郎は自分の会社が手掛ける建設現場で、ビル屋上からの鉄骨落下に巻き込まれる。
彼自身は無傷だったが、ベトナム人の作業員が鉄骨の下敷きとなり死亡してしまう。
事故として処理されたが、玄太郎は司法解剖を要求し、グエンの下腹部に不可解な傷跡を見つけた。