月の娘にスープを送る
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あらすじ
本庄悦子は猫のポチと二人で暮らしていた。
夫の聡は家を出ていて、娘の琴は全寮制の学校に入っていた。
悦子はITベンチャーのミハラで働いていた。
かつてはIT大手のアルフレッドでスマートスピーカーの開発に携わっていたが、もっと自由に力を発揮するため、ミハラに転職していた。
彼女たちのチームは、音声認識エンジン「ラダ」を完成させた。
結局ミハラ社は、スマートスピーカーのハード開発は行わず、音声認識エンジンだけをアルファベットに提供する形となった。
夫の聡は、彼女の退社後にアルフレッドのサポート担当から開発グループに移り、スマートスピーカ「レベッカ」の開発主任となっていた。
アルフレッド社の新製品発表会の中で、新型の「レベッカ」も公開される。
会場には音声認識エンジンを提供した悦子たちのチームも招かれていた。
開発主任の聡がプレゼンを進めたが、何者かに「レベッカ」が乗っ取られてしまう。
世界中の「レベッカ」のスピーカー・アプリに侵入した侵入者は、「ねこねこクイズ」を出題する。
一問正解ごとに約100円分の仮想通貨が振り込まれるため、多くのユーザが殺到した。
悦子の元にダイオウグソクムシの姿をした「ドッグ」が度々訪れてきた。
ドッグは、悦子たちのいる現代Aとは異なる現代Bからやってきたのだという。
エネルギー節約のためドッグ「思念」だけを送っている。姿かたちや話し方はは、デコード側のリソースを使うため、実際とは異なるイメージで再生されているのだという。
ドッグは「娘の琴がレベッカ乗っ取りに関与している」のだといった。
プレゼンで「レベッカ」が乗っ取られた時の画像を見ると、背景に一瞬だけ「琴が大切にしていた猫のぬいぐるみ」が写っていた。
娘が書いたプログラムを悦子のパソコンで走らせたことがあり、そこで何かを仕込まれた可能性もあった。
それでも娘を疑うことはできない悦子は聡に相談する。
聡は、ぬいぐるみの画像が合成である可能性に気付き、彼女たち家族を嵌めようとしている何者かと闘うことを決意する。
「ねこねこクイズ」の賞金額が跳ね上がる。
「日本のてっぺんを探せ」というクイズに1億円の賞金が掛けられた。
多くの参加者が富士山に殺到するが、そこは「不正解」だった。
かつて悦子に関係のあった場所が「正解」で、明らかに彼女たち一家を狙った犯行だった。
引き続き1億円「ねこねこクイズ」の2問目が出題され「狐の耳を探せ」という。
千人以上の参加者が集まった、正解の場所で「個人情報を人質」にした脅迫が行われた。
名前をあげられた 本庄一家の3人は、憎悪を集めてしまい、すんでのところで逃げ出した。
バラバラだった 悦子、聡、琴 の3人は、一丸となって犯人を追及していく。
感想
「IT絡みのサスペンス」「不思議な雰囲気のファンタジー」「家族の絆の物語」
高山さん作品の集大成っぽい感がある傑作でした。
スマートスピーカーを題材にして、安易にプライバシーを切り売りする風潮に警鐘を鳴らしつつ、やっぱり作者さんは「テクノロジー」が好きなのだなぁと感じさせる。
バラバラに離れてしまった家族は、テクノロジーの間隙を突いた犯人に振り回される。だが最後には、テクノロジーが家族を再び結びつける。
家族が「スープの冷めない距離」に住まうことは難しいこともあるだろう。
それでも「気持ちが繋がっていれば」缶詰や電子レンジといった「テクノロジー」を役立てることができる。
テクノロジーが生み出した「ダイオウグソクムシ なドッグ」も、そこに気持ちが入っていたから、家族の絆を繋ぎ直すことができた。
テクノロジーにはリスクがある。
丸投げするのではなく主体的に使うことが大事。
テクノロジーに、心を吹き込むのは人間だけだ。
思いを込めることで、テクノロジーを幸せに使うことができる。