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どこかでベートーヴェン

どこかでベートーヴェン

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あらすじ

岬洋介シリーズ第4弾。
岬洋介の高校生時代を描く「エピソード・ゼロ」的な位置付けの作品。

語り手「僕」である 鷹村亮は、岬洋介がショパンコンクールの本選に参加したことを聞き、彼と一緒に過ごした高校時代を思い出す。

10年ほど前、17歳の岬洋介は1年前に新設された加茂北高校の音楽科に転向してきた。隣の席にいた鷹村は、どこか浮世離れした転入生岬の保護者的な立場となる。

音楽の授業で、岬は圧倒的なピアノ演奏を披露し、無自覚に才能の差を見せつけ、クラスの雰囲気を一変させてしまう。

それまでピアノ演奏でクラストップだった鈴村春菜は、プライドを打ち砕かれながらも、岬にへの関心を深めていく。
岩倉智生は、岬を排除しようと暴力をふるうが反撃を受けた。

夏休み期間中、音楽科クラスが文化祭での演奏練習のため登校していた日、激しい雨が降り校舎の周りに土砂崩れが起きた。
学校は山中にあり形態は通じず、電話線も切れて外部との通信は遮断された。
唯一の出入り口である橋が崩壊し、生徒たちは完全に閉じ込められてしまった。

岬は、倒れた電柱を使い濁流を乗り越え、助けを求めに行った。
彼の活躍によりレスキュー隊が訪れ、生徒たちは救助される。

だが、岬が助けを呼ぶために通った道に、同級生岩倉の死体が発見された。
岬は参考人として警察で聴取を受ける。

まもなく警察からは解放されたが、同級生たちはかつて岩倉と確執のあった岬が殺した可能性もあると考えていた。

岬は、事件当日に体調不良で学校に来ていなかった担任の棚橋から話を聞いた。
棚橋は、その日は家にいたと言ったが、実際には役場で資料を調べていたことが判明する。

加茂北高校設立の際、市街地近くに土地がなかったため、山を切り崩して敷地を確保していた。
その際に地質調査のための予算が計上されていたが、調査が実行されたのか疑問視されていた。さらに今回の土砂崩れで調査が不十分だったのではないかとの疑いが強まる。棚橋を含む教員有志たちは、抗議デモを行っていた。

さらに調べていくと、高校の建設を請け負い、地質調査と土地整備を行ったのは、亡くなった岩倉の父が経営する建設会社だったことが判明する。

岬は今回の殺人と、高校建設に関するトラブルが関係している可能性を探っていった。

事件の影響で練習ができなかった音楽科クラスは、楽器演奏から合唱に文化祭での演目を変更し、それに岬のピアノソロも加えることした。
クラス内で岬に対する反感はさらに高まったが、担任の棚橋は強行し、岬本人も飄々と取り組む。

発表当日、凡庸な合唱に次いで岬が披露したピアノ演奏は、聴衆もクラスメンバーをも圧倒した。だがその演奏途中、岬に異変が起こる。

感想

本作では、音楽の「才能」について、かなりシビアな見方を提示している。

シリーズ1作目『さよならドビュッシー』や、2作目『おやすみラフマニノフ』では「困難に負けるな!」「カッコ悪くても足掻け!」と、頑張る人の背中を押すようなメッセージが込められていた。

だが本作では「特定の才能を必要とする世界で成功するのはバケモノだけ」で、「見当違いの努力は努力じゃない。ただの徒労だし、頑張っているという言い訳にしかならない」という。
「自分が闘える戦場を見つけるため」に足掻くのが「正しい努力」なのだという。

冷徹で身も蓋もない。だがそこに一面の真実もある。
「負けることを考えるなんて鬱陶しくて惨めなだけだ。でも、捨て去る勇気がなければ、何でもかんでも背負って身動きが取れなくなる。選択する勇気、諦める勇気が結局は可能性を拡げる」

若いころは何にでもなれる気がした。
何かを諦めることは自分の可能性を狭めるようでイヤだった。
結局今でも大して変わっていない。
より多くの可能性が残せるよう「逃げて」いる。

「決断」は「断つことを決める」ことだ。
何かを選ぶには「選ばなかったものを捨てる覚悟」が必要だ。
「決断」できなければ、可能性を掴むこともできない。

ある意味、前作よりも重たいメッセージだった。




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