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魔女は甦る

魔女は甦る

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意外な犯人(?)

中山七里さんがデビュー前に「このミステリーがすごい」に投稿し、最終選考まで残るも落選した作品。

うーん、落選が信じられないくらい、めちゃくちゃ面白い。

まず犯人が意外。
この犯人には全く辿り着かなかった。ミステリ黎明期からあるパターンでアンフェアさはないのに、考えても思い付かない。清々しく騙された感覚が残った。


また、中山七里さんらしい「アナクロ感」も素晴らしい。デビュー前からこういう作風だったのか。

後のシリーズで主役を張る刑事、渡瀬や古手川が既に登場している。
ミステリの歳の差コンビは若手の鋭さが光るケースが多いけれど、本作で若手の古手川はひどいダメ刑事扱いだ。昭和なアナクロ感満載の渡瀬やその相方が渋いカッコよさを醸している。

中山七里さんは「作品に自分の主張を込めたことはない」とおっしゃるが、この辺の「アナクロ賛美」は全作品から滲み出ているように思える。


もう一つ「やり遂げる力があるのに、あれこれ理由をつけて現場から逃げる卑怯者にはなりたくない」という心意気も中山さんの作品たちから感じる。

個人的にはひろゆきさんの「明日できることは今日やるな」という哲学の方に親近感を覚える。でも無意味なことから逃げて余力を残すのは「本当に自分がやるべきこと」に死力を尽くす為なのだろうな、と思ったりもする。


日々新しいものが生まれ、数年前の知識が何の役にも立たなくなる昨今、昭和なアナクロ親父は自身を失いつつあるようだ。
そんな中、やたらエネルギッシュなおっさんの存在が、なんだか嬉しかったりするものだ。

あらすじ

埼玉県の沼地で男性の死体が発見された。

バラバラにされた死体はカラスなどに食い散らかされ見るも無惨な状況だったが、身分証明などは残っていたため、すぐに身元は判明する。

調査が進むと被害者は温厚な性格で、恨みを抱く人間はいそうになく、かなりの資産を持ってはいたが、彼が死ぬことでお金が入ってくる人は皆無だった。


バラバラ殺人調査の真っ最中、多くの警官がいるすぐ近くで、赤ん坊の失踪事件が発生する。縁側にいた生後4ヶ月の赤ん坊が、わずか数分目を離した隙にいなくなってしまった。

赤ん坊が失踪した家は普通の世帯で、身代金狙いとは思えない。実際、数日経過しても身代金の要求はなかった。


怨恨でも身元を隠す意図もないのにバラバラにされた死体。
身代金を要求するのでもない誘拐。

矛盾に満ちた犯罪でも「事実を事実として認識し、それを立脚点に捜査を進めれば、やがて矛盾が矛盾でなくなる瞬間が訪れる」のだという。

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