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虚構推理

人々が求めるのは「真実ではなく物語的な真実」 ネタバレ感想『虚構推理』

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あらすじ-ネタバレあり


「鋼人七瀬」の誕生
マイナーアイドルだった七瀬かりんは、その知略で名を売っていき「中の上」くらいのポジションを得た。

だが、不仲だった父の死が報じられ、彼女に疑いの目を向ける人たちが現れる。七瀬はマスコミを避け、地方都市である真倉坂市のホテルで身を隠していたが、ある夜、ホテル近くの建設現場で鉄骨の下敷きとなって死んでしまった。防御することなく顔に鉄骨を受けていたことから「自殺に近い事故死」として処理されていた。

やがて「アイドル衣装で鉄骨を振り回す顔の潰れた幽霊」の目撃証言が相次ぎ、まとめサイトを中心に「鋼人七瀬」の都市伝説が広がっていった。

岩永琴子と桜川九郎の出会い
岩永は11歳の頃に神隠しにあう。妖怪と人の間を取り持って欲しいという願いを受け入れた岩永は、右眼と左足を奪われ「一眼一足」の「知恵の神」となった。

岩永は、通院していた病院で桜川九郎と出会い恋心を抱く。
九郎は、長期入院している従姉 桜川六花の見舞いで、頻繁に病院を訪れていた。
九郎には彼女がいたため諦めていたが、二人が分かれたと聞き、強引に恋人となる。

桜川家は特殊な一族で「食う」ことで妖怪の力を取り込もうとしていた。

牛の身体と人の頭を持つ妖怪 件(くだん)は予知能力を持つが、予知をすると力尽きて死んでしまう。
桜川家では多くの者が件の肉を食べ、予知能力を身につけたが、その後すぐに死んでしまった。

そこで桜川家は「人魚」に目を付けた。
人魚の肉を食べることで「不老不死」になるという。件の「予言能力代償としての死」を、人魚の「不老不死」の力で相殺させようという考えだ。

件と人魚は「食べ合わせ」が悪く、両方を食べた者はほとんどが死んでしまう。
だが、桜川九郎は二つの力を取り込むことに成功し、妖怪からも恐れられる存在となった。

弓原紗季と「鋼人七瀬」
かつて九郎の恋人だった 弓原紗季は、九郎の「異能」知り畏れて、彼と別れる。

大学卒業後には真倉坂市で警察官として勤務していた紗季は、同僚の寺田刑事から「鋼人七瀬」についての情報を求められる。寺田は「幽霊を装った何者かの犯行」だと考え調査を進めていた。

ある夜、紗季は帰宅途中に「鋼人七瀬」に襲われ、触れてもすり抜けてしまう本物の「幽霊」であることを確信する。
「鋼人七瀬」を追っていた岩永に助けられ、何とか逃げ出した。
九郎も合流し「鋼人七瀬」についての情報を交換していく。

「鋼人七瀬」の噂を追っていた寺田刑事が殺される。
七瀬かりんと同じように、まったく防御せず顔面を潰されて死んでいた。

世間では「鋼人七瀬」の都市伝説がさらに盛り上がっていった。

虚構同士の戦い
岩永は「鋼人七瀬」は、七瀬かりんの「幽霊」ではなく、都市伝説を面白がる人々の思いが結実した存在だという。

「鋼人七瀬」を生み出した「虚構」よりも、より深く人々の心をとらえる「別の虚構」を提示して、現実を書き換えようと考えた。

岩永、九郎、紗季は、虚構を駆使し「大衆の総意」と闘っていく。

感想

「都市伝説」の考察が面白い。

人々は、真実よりも、納得できる物語、面白い物語を求めている。
「信じたいもの」を信じるのだ。

さらに、ネットは人々の意見を極端な方向にまとめ上げる。
例えば政治の場であれば、多数決による民主主義であっても、相互の繋がりが深くしがらみがあると、極端なことはしにくい。
一方でネット上の民主主義は、匿名性と相互関係の薄さから「本能的に行きたい方」に向かうことが簡単になっている。

人々が求めていることを知り、ネットの特性を活用すれば「妖怪」を生み出すこともできるのだろう。


それにしても、小説という「フィクション」の中で、もう一階層の「フィクション」を構築するのはすごい力量だ。
「本筋は捨てても、その前提は受け入れさせよう」だとか「あえて非合理な飛躍で読者を冷静にしよう」とか、作家としてのメタ的視点を前面に出しつつ、物語としてほうかいさせ非合理な飛躍で読者を冷静にしよう」とか、作家としてのメタ的視点を前面に出しつつ、物語として崩壊していない。

これは新しい傑作ミステリだ。
シリーズ続編を読んでみよう!

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