虚構推理短編集 岩永琴子の出現
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あらすじ
「虚構推理」シリーズ第2弾。
今回は短編集。
幼いころ妖怪たちの願いを聞き入れ「あやかしと人を繋ぐ知恵の神」となり、その代償に右眼左足を奪われて「一眼一足」となった岩永琴子が主人公。
件(くだん)の未来予知能力と、人魚の不老不死の力を身につけた桜川九郎と共に、あやかしたちから持ち込まれる事件を「解決」していく。
- ヌシの大蛇は聞いていた
岩永琴子は、隣県で水神として祀られ一帯のヌシとなっていた大蛇から相談を受ける。
大蛇が棲む沼に死体を捨た女性 谷尾葵の「うまく見つけてくれるといいのだけれど」と呟きが気になるという。
遺体発見されることを願うなら山奥の沼に捨てたりしない。
水神の大蛇に遺体が食べられることを望むなら「上手く食べてくれればいいのだけれど」となるはずだと、納得しかった。
谷尾葵が「見つけて欲しかったもの」は何だったのか。
- うなぎ屋の幸運日
梶尾隆也が友人の十条寺遼太郎とうなぎ屋で食事をしていた。
二人は、古色の濃い店で、深窓の令嬢然とした岩永琴子が、一人で特上うな重を食べてるのをみて違和感を感じ、状況を解明しようとしていた。
そんな時に突然、十条寺は梶尾に「お前、奥さんの雪枝さんを殺したな?」と問いかけた。
- 電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを
ドラマの舞台となったことから、海沿いの田舎町に急に人が集まりだした。
だがここにきて、死んだ魚が大量に浜に打ち上げられることが増え、観光客が急減する。
町の中で頼られる存在だった老女多恵は、町長から相談を受けた。
町長は、この事件が、急増した観光客の車に子供を轢き殺され、失意のうちに死んでいった善太の呪いではないかと考えていた。
多恵は町長の話を一笑に付したが、じつは善太の作った木製の人形の仕業であることを知っていた。
多恵に懐いた化け猫に連れられ、善太の作った人形が雷撃で魚を殺し、止めようとした妖怪たちを返り討ちにするのを目の当たりにしていた。
妖怪たちに助けを請われて訪れた岩永は「人形を壊すこと自体は簡単だが、それでは他の問題を引き起こす可能性がある」という。
- ギロチン三四郎
宮井川甲次郎が義理の弟を口論の末殺してしまい、所持していたギロチンで首を切り落とした。
事件の報道を聞き、甲次郎と親しい関係にあった、イラストレーターの森野小夜子は「自分の身にも警察の捜査が及ぶのではないか」と戦々恐々としていたが、甲次郎は彼女のことを口にはせず、何事もなく過ぎ去ろうとしていた。
ある日、小夜子はローカル線に乗ってスケッチの題材集めをしていた。
小夜子は車内で眠っていた岩永を見て、岩永の持つ不穏な雰囲気に足を止めて見入ってしまう。
岩永の隣にいた桜川九郎が小夜子に話しかける。
小夜子がイラストレーターだとしり、彼女の絵を検索してみていた。小夜子の絵は、断崖絶壁や廃墟など死を連想させる場所や、絞首台や電気椅子など死刑の道具と一緒に、招き猫を配置した独特なものだった。
九郎は小夜子に「ところで、ギロチンの絵がありませんね?」と尋ねた。
- 幻の自販機
「夜間、道沿いにうどんの自販機が現れ、謎肉が乗った美味しいうどんが提供されるが、後からその自販機を探そうとしても見つからない」という都市伝説が流布していた。
これは、たぬきの妖怪が古くなった自販機を妖力で動かし、妖怪や人間に食べさせているというのが真相だった。
本間駿は、共同経営者である東岡の違法薬物売買を糾弾した。
東岡は保身のため本間を殺そうとしたが、もみ合って反撃するうちに、本間が東岡を殺してしまう。
動揺した本間は現場から逃げ出した。
逮捕された本間は罪を認め、途中で「自販機のうどんを食べ、補充している人に話しかけた」と証言したが、そのうどん自販機が見つからない。
殺害時刻と本間の証言の食い違いはあったが、本人が罪を認めているため、起訴されることは確実だった。
だが一人の刑事が、証言の矛盾を不審に思い独断で捜査を継続する。
たぬきたちは、うどん自販機を再開できず、岩永の知恵を借りに来た。
感想
最初から「あやかしからの情報」で真相が分かっているので、ある種の「倒叙ミステリ」といえる。とはいえ、かなり特殊な構成だ。
一般的な倒叙の面白さは「追い詰められる犯人視点での恐怖感」だと思う。
子供のころに読んだ、江戸川乱歩の「心理試験」とか、超怖かった。
一方本シリーズでは、別に犯人を追い詰めるわけではない。
「真相」よりも、より好都合な「虚構」を作り上げていくことを狙っている。
「真実はいつも一つ」
でもそれが、いつも一番幸せな解決とは限らない。
短編集なので前作の「虚構推理」ほど凝ったプロットではないが、それぞれにひねりが効いて斬新だった。
また印象に残ったのは、本作第4話『ギロチン三四郎』で小夜子が描く絵の題材だ。断崖絶壁や絞首台、電気椅子など「死を匂わせるモチーフ」の横に、可愛らしい「招き猫」を置いて対比させる。
可愛らしさが不気味さを中和させるのではなく、そのアンバランスさが却って恐ろしさを増幅する。
本シリーズでも、妖怪やグロテスクな死などの不気味な描写の横に、凛とした西洋人形のような美少女を配置することで、心を揺さぶる不安定感を出している。
この話を読んで絵的なイメージが浮かんだ。
面白い作品だ。