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見えない誰かと

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あらすじ

瀬尾まいこさんのエッセイ。
家族の話や、先生として働いた時期の話が中心。
エッセイなので「あらすじ」は書きにくいが、印象に残った話を紹介する。

  • 言葉

中学校で働いていた当時、聴覚障害についての学習を企画した。
そこで実際に聴覚障碍者と交流を持ったが、聞こえていないはずの相手と普通にコミュニケーションが取れていたことに気づいて驚く。
伝えたい気持ち、受け入れる気持ちの前では、言葉なんてただの後付けでしかない。
そして、「たいていのことは本当はすごく簡単。やる前に考えていても仕方ない。知識や情報は当てにならず、自分で振れて見なければ何も知ることはできない」のだ。

  • ミーハーおばあちゃん

母方のおばあちゃんは半端ない心配性だった。
高校生当時、すこし帰りが遅れただけで騒いだり、いい歳をした母親に対しても同じように接していた。
実家を出て一人暮らしを始めても、帰省のたびに心配されていたが、あるときから急に心配性が消えた。韓国ドラマの「ヨン様」に夢中になったことが原因だ。
ミーハー大いに結構。いくつになっても夢中になれることがあるのはいい。

  • ストーカー

中学で働いているとき、机の上に雑草を置かれるなど、地味な嫌がらせを受けた。
女子生徒の一人が「瀬尾が私の好きな男子をとった」と思っての行動だった。
当然否定したが嫌がらせは続き、登下校時も待ち構えていた。ストーキングは彼女の卒業まで続いたが、最後には手作りのぬいぐるみをプレゼントされた。
「はじまりやきっかけはめちゃくちゃでも、いくつかの時間を一緒に過ごすと、何らかの気持ちが芽生える。毎日文句を言っているうちに、気持ちが形を変えていった。いつもいい方向に動くとは限らないけれど、接した分、やっぱり何かは変わっていく」

  • 能力開発センター

小学校、中学校受験を目指す子供たちを指導する「能力開発センター」でバイトしていたときの話。
能力開発センターに来ている子供たちは、みんな素早かった。保護者からもより効率的に勉強するようプレッシャーがかかっていた。
そんなセンターに、おとなしくマイペースな男の子がいた。
他の子どもが講師と話している親を急かすなか、彼はゆっくりお父さんのめがねを磨いていた。「お迎えに来てくれるからねえ」とゆったりと感謝を示す。
勉強を詰め込む教室の中で、ふんわりとした優しさを持ち続けるのはすごいことだ。

  • 図書室の神様

勤めていた中学校に文学部ができ、顧問となった。
部員一名、顧問一名の小さな部活だったが、たった一人の部員である男子生徒は真面目に活動に取り組んでいた。
貴重な中学生の時期に、一人図書室に閉じこもって本を読むのが良いことだとは思えなかった。また陸上で府大会に進出するほどの実力を持ち、学校内で一番運動神経の良い彼が「文学部にいるのはもったいない」という気がしていた。
だが彼は文学部のノートに「僕が今までで一番幸せだったのは、かけっこで一番になったときでも、テストで100点を取ったときでもない。希望通り文学部ができたときだ」と書いた。彼の「幸せ」についての明確な答えだった。
やがて彼は市の主張大会で、「文学のすすめ」という文章を堂々と発表する。彼の痛々しいほどの優しさを痛々しく思っていたが、その意外な強さに胸を打たれた。

感想

瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』が大好きだったので、著者ぼエッセイを読んでみた。

瀬尾さんの視点は、とにかく優しい。
彼女の周囲に素敵な人たちが集まってくるのは、彼女自身の人を見る視線が優しくて誠実だからなのだろう。

「誠実に生きなきゃ」と優しく諭された気分。

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