卵の緒
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ネタバレ あらすじ
小学生の育生とその母、母の再婚相手 朝ちゃんの、家族の物語。
「自分は捨て子に違いない」と感じた育生は、母親に「へその緒を見せて」とせがむ。母は箱に入った「卵の殻」をみせ「育生は卵から生まれた」のだという。
「卵の殻が親子の証なのか」と問う育生に母は、「本当バカね。証って物質じゃないから目に見えないのよ」と答える。親子の証として育生を抱きしめ「母さんは、誰よりも育生が好き。それはすごい勢いで、あなたを愛しているの。今までもこれからもずっと変わらずによ。ねえ。他に何がいる?それで十分でしょ?」といった。
母は育生との食事中「自分が好きな人を見分けるとても簡単な方法」を教える。
「すごーく美味しいものを食べた時に、人間は二つのことが頭に浮かぶようにできているの。一つは、ああ、なんておいしいの。生きててよかった。もう一つは、ああ、なんておいしいの。あの人にも食べさせたい。で、ここで食べさせたいと思うあの人こそ、今自分が一番好きな人なのよ」と。
こう言って母は自分の好きな人「朝ちゃん」を食事に招いた。
育生は、母の作った「にんじんブレッド」を、登校拒否をしている友達の池内君に食べさせたいと思った。話を聞いた母は、即座に池内君を家に呼んだ。「母さんはうそつきだけど、言ったことは本当にやる」人だった。
池内君を招いて朝食を食べていると母は、「せっかく池内君を呼んだのだから、今日は育生も学校を休もう」という。
育生はズル休みに抵抗があったが、母は「あんまりつまらないこと言わないで。母さんはそういう育生の生真面目なところに惹かれてはいるけど、たまにはいつもと違うことしてみる余裕が育生には必要なのよ。たまに外れたことをしてみないと、ものの重要度がわかんないの。学校は大切だし、休んじゃいけない。でも、学校を休むことはたかが知れてる。たいしたことないてことも、大切だってことも、そのことを破ってみないとわかんないのよ」と諭した。
母は自分も会社を休み、朝ちゃんにも会社を休ませ、その日は「好きな人と好きなものを食べる日」になった。
母は朝ちゃんと再婚した。
しばらくして母のお腹が大きくなり「今度は卵じゃなくて、お腹から産むわ」という。そして母は育生と出会った時の話をした。
感想
家族っていうのは、血がつながっているから自動的に成立するものじゃない。逆にいえば血がつながらなくても「愛」があれば成り立つ。
物理的な「へその緒」はなくても、強く抱きしめたり、真っ直ぐな言葉で愛を伝えたり、おいしいものを食べさせたいと思ったり、思いがあれば絆を作ることはできる。
もう一つ、どうにも息苦しくなっている最近の世相で「ルールを破ってみなければ、大したことないのか大切なのかの判断もつかない」という主張は痛快だ。
「大したことない」ことや「自分と直接は関係ない」ことでも「ルールから外れている」という一点で全否定するような余裕のなさが広がっている。
ものごとを、ありのままのスケールで、是々非々でで捉えられる「芯の強さ」をもつ母が、ひたすらカッコよく見えた。
瀬尾まいこさんの優しい視線と、その優しさを支える強さが、改めて感じられる作品だった。