図書館の神様
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あらすじ
- 図書館の神様
早川清(きよ)は、古臭い名前を恥じながら、それでも名前通り清廉潔白に生き、どんなことにも全力で取り組んでいた。
高校時代、清はキャプテンとして女子バレー部を引っ張っていた。練習試合でミスをした部員を強く叱責し、翌日彼女が自殺してしまう。その叱責が自殺の原因だと断定されたわけではないが、周囲のプレッシャーを感じ、清はバレーをやめてしまった。
大学生になった清は、ケーキ作り教室講師である浅見と不倫関係に陥る。妻子ある浅見に惹かれ、彼の都合に振り回されながらも幸せを感じていた。
清はまたバレーに関わりたいと考えていたが、高校時代の経験から再び踏み込むことに怖さを感じていた。それでもバレーに関わりたかった清は、浅見のアドバイスを聞き、学校講師としてバレー部活顧問になることを目指す。
大学卒業後、清は一年間の期間契約で高校の講師となったが、狙い通りバレー部の顧問となることはできず、部員一名しかいない「文芸部」の顧問となった。
一人きりの部員である垣内君は、真剣に文芸部の活動に取り組んでいた。
最初のうち清は、何を達成すればいいのか分からない文芸部を退屈に感じる。運動神経のいい垣内君が運動部に所属しないことをもったいないと思っていが、垣内君は「文学が運動よりも楽しいからだ」と、本気で考えていた。
浅見の妻が妊娠し、清との関係が変化していく。
怖い話を読んだ後にその気持ちを共有したいと電話をかけ、それも許されない関係に浸かれてしまった清は別れを決意した。自分からメールを出さず、電話を「5回」無視するだけで関係は切れた。
真剣に取り組む垣内君に引っ張られ、清も文学の面白さを少しずつ理解していく。教師たちから文芸部の活動をディスられた清は「朝練」を提案し、図書室の本の整理をしたりして、文芸部の活動にも充実感を覚えていった。
- 雲行き
早季子の母は、熱しやすく冷めやすい。
最近は天気予報にハマり、降水確率0%の日に「今日は雨が降るから傘を持って行け」という。
早季子は母の天気予報を当てにせず傘を持たずに家を出たが、母の再婚相手である佐々木は母を信じ「天気予報が当たるか」賭けを持ち掛けてきた。
感想
表題作の『図書館の神様』は本当に素晴らしい作品だった。
ひたむきに真摯に、でも不器用に生きる清の成長物語。
妥協を知らない真っ直さで挫折した清が、「しなやかに、おおらかに生きること」を学んでいく。
自分の正義を貫くことは、ある意味「楽」だ。基準を決めてしまえば「考え続け」なくてもいい。
でもそれはときに、人も自分も傷つける。「水清ければ魚棲まず」なのだ。
清は弟の拓実を「精神は軟弱、適当で嘘つきで、いい加減で、人の顔色ばかり見て容量がいい」と評する。
だが拓実は言う。
きっぱりさっぱりするのは楽じゃん。そうしていれば正しいって思えるし。だけどさ、正しいことがすべてじゃないし、姉ちゃんが正しって思うことが、いつも世の中の正しさと一致するわけでもないからね。
文芸部活動に打ち込む垣内君からは「人には多様な価値観がある」ことを学ぶ。
弟の拓実からは「清濁併せ呑むおおらかさ」を学ぶ。
不倫相手の浅見からさえ「許し合うということ」を学び取る。
すぐに花を枯らしてしまっていた清は「花を長持ちさせるコツ」を学び取った。
自分が読んだ瀬尾まいこさんの作品の中では『そして、バトンは渡された』につぐ傑作だった。他の話も読んでみよう。