作家刑事毒島

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あらすじ
人気ミステリ作家であり、「刑事技能指導員」として働く警察官でもある、毒島真理 が出版業界周辺で起きた事件を解決していく短編集。
- ワナビの心理試験
フリー編集者の百目鬼二郎が柄のないアイスピックのようなもので胸を刺されて殺された。
百目鬼は文芸誌新人賞の下読みをしていたが、落選者に率直な評価を送ったため恨まれた可能性があると考え、3人が容疑者となった。
異世界バトルでハーレムものの『俺がどうしてもこうしてもあの娘を嫁にほしい理由』を酷評された32歳ニート 天城まひろ。
定年退職後に書いた昭和感ばりばりのビジネス小説『夕日への熱き猛る咆哮』を否定された66歳の近江英郎。
百目鬼が講師をしている小説講座を受講し『あしたのあたしはきときょうのあたしではない』が落選した藍川しおり。
捜査担当となった高千穂明日香は現役のミステリ作家でもある刑事技能指導員 毒島真理 に助言を求めた。
- 編集者は偏執者
編集者の斑目彬の死体が中野の廃墟前で発見された。
スタンガンで気絶させられた後に、刃物で刺されていたようだった。
斑目は売れる本を作る優秀な編集者だったが、作家とのトラブルも抱えていた。
高村汀子は、アンソロジーの穴埋めに、過去の二次創作ものを無断で使用されたことに怒り抗議していた。また、斑目に出したミステリのプロットが他の作家に渡されたことでも恨んでいた。
天童九一郎はライトノベルで新人賞をを獲った後、2作目の執筆に難航していたとき、斑目からアイデアをもらった。だが、そのアイデアは元々他の作家の者だったことが判明した。天童は、このときのイメージダウンで売れなくなってしまったと斑目を恨んでいた。
斑目の死亡推定時刻は午後9時から11時だったが、動機を持つ二人にはアリバイがあった。
高村は作家仲間と飲み会をしていた。
場所は死体が発見された新宿に近い中野だったが、午後7時から12時過ぎまで建物の外に出ていないことは確認されていた。
天童は赤坂のバーで午後8時から12時まで飲んでいた。
絡むような飲み方でバーテンの記憶に残ったため、アリバイが成立していた。
毒島は真綿で首を締めるように、二人を追い詰めていく。
- 賞を獲ってはみたものの
ベテラン作家の桐原夢幻が事務所の業務用シュレッダーにネクタイを引き込まれ窒息死していた。
新人賞の選考委員となっていた桐原は、授賞式のスピーチで受賞者の御剣哲也に浮ついた気持ち諫めるような発言をして、場をを凍らせていた。授賞式の後には「説教部屋」と呼ばれる二次会に新人賞をとって数年の作家を呼び出し、白羽の矢が立った何人かに厳しい指摘をしていた。
3年前に新人賞を獲った雀目太陽は、デビュー作『黒点戦争』に繋がる長大なシリーズを描くことにこだわり、出版社の要求に答えなかった。
桐原は「商業ベースに乗せる以上、利益を上げるのは最低条件」と切り捨てる。
2年前の樹種者 芥川直樹 も受賞作『金色の虹を渡って』以降、執筆のペースが遅かった。出版社のプロモーションがないことに不満を持つ芥川に対し、桐原は「優れた才能なら放っておかれることはない、一枚でも多く原稿を書け」とはっぱをかける。
昨年の受賞者 桑野まるみ も受賞作以降、ほとんど執筆していなかった。
プロとなった以上中途半端なものは出せないという桑野に、桐原は「一般読者は一年前の新人賞受賞者など名前も覚えていない」と、自意識過剰を戒めた。
毒島は容疑者たちに揺さぶりをかけ、犯人を炙り出していった。
- 愛涜者
人気作家の高森京平が石段から転落して死んでいた。
死体の下には高森の最新刊『その背中にグッバイ』があり、サインされた宛名を書かれたと思われるページが切り取られていたことから、他殺であると判断された。
事件当日、高森はトークショーの後、抽選に残った3名と懇親会を行っていたが、その場の雰囲気は最悪だった。
懇親会に参加したのは、桑江朋美、牧島日菜子、加納郁の3人。
桑江朋美は「辛口オトメ」の名で書評ブログを書いていた。
高森の新作も遠慮なくネタバレし、徹底的にこき下ろしている。懇親会の場でも作品を批判していた。
牧島日菜子は、ヒロインが自分と同姓同名だった高森のデビュー作『サイレンの魔女』は自分へのラブレターだと信じていた。直接話せる懇親会の場を千載一遇のチャンスと考え、強引にアプローチしていった。
加納郁は、かつて文芸新人賞への初投稿で最終選考まで残ったが、それ以降は一次選考も通らない。これは自分の才能に嫉妬した選考者のせいだと考えた加納は、高森を「文学的同志」として頼ろうとした。
3人のうちサイン本を持っていないのが犯人ではないかと考えられたが、桑江は最初から本を買っていないといい、牧島と加納はサイン本を所持していた。
毒島は高森の妻から彼の書斎を見せてもらい、真相に気づく。
- 原作とドラマの間には深くて暗い川がある
テレビ局プロデューサーの曽根雅人は地下鉄駅で全身に打撲を受け死んでいた。
直接の死因は打撲自体ではなく、弱ったまま倒れ込んで舌が詰まったことによる窒息だった。
曽根は毒島の『トリコロール~三色の悪意』を原作としたテレビドラマをプロデュースしていた。
芸能事務所からの干渉やスポンサーへの配慮から、原作が大きく改変されていることに対し、出版社の辛坊誠一は毒島本人とともに抗議に訪れたが、曽根からはいなされてしまう。
その後、曽根は懐柔のための宴席を設けたが、毒島は忙しいと帰ってしまう。
結局、曽根と、出版社の辛坊、演出の鳥飼満樹、脚本家の布施博則 4人での食事会となった。
事件はその食事会終了後の帰宅途中に起こっている。
今回は毒島にも動機があり、アリバイも無かったことから容疑者とされる。だが彼は「自分なら事件があったことさえ発覚しないようにする」と豪語する。
監督で演出家の鳥飼は、その作品に曽根から徹底地宥めだしをされていた。また曽根の強引さや倫理観の無さに怒りを持っていた。
脚本家の布施も曽根から才能の無さを指摘され、今回のドラマでも決定稿まで直前に変更するなど無茶な要求を振られ恨んでいた。
毒島は、過去の映像作品からヒントを得て、ドラマの撮影現場に罠を仕掛ける。
感想
作家志望者に親でも殺されたのか、毒舌が容赦ない。
出版業界の闇にも鋭く突っ込んでる。絶望的な労働環境だし、関係者たちの倫理観がねじ曲がっている。
これは「さすがに話を盛ってるんだろう」と思いきや、奥付に
この物語は完全なるフィクションです。現実はもっと滑稽で悲惨です。単行本の刊行から二年経過しましたが、状況は悪化の一途を辿っています。
とあるのは、さすがに笑った。
本気で出版業界に深い恨みがあるのかも。
とはいえ、これだけ罵詈雑言を浴びせつつも、それでも立ち上がってくる人には「少しだけ」の優しさを見せる。
「頭でっかち」への苦い愛情表現、なのかもしれない。。