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875

875

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あらすじ

都市伝説をベースとした幻想的な3つの短編。

  • 875

小学校4年生の3学期、母親の再婚を機に、裕子は新潟の学校に転校した。

クラスに溶け込めなかった祐子がトイレに籠っていると、一人の少女が個室に入り込んできた。彼女は言葉を発しなかったが、持ち込んできたマンガを一緒に読んで笑い合った。

休み時間が終わると、少女は姿を消してしまった。祐子は彼女に会いたくて休み時間になるとトイレに籠ったが、出てくることはなかった。

やがて祐子は5年生になる。
義父からの性的な視線を気味悪く感じ始めていた。母親も、義父が祐子と一緒に風呂に入ろうとするのを止めてはくれなかった。
義父がアダルトショップに入ったところをクラスメートに目撃され「変態の子」といじめられ始める。

祐子へのいじめがエスカレートして、トイレに閉じ込められた時、再び少女が現れ助けてくれた。彼女は祐子の手の甲に印を書き、それからはいつでも彼女を見ることができるようになった。

彼女は学校で噂されている「トイレのハナコさん」だった。
子どもたちは、ハナコが気に入った子どもをトイレから異世界に引きずり込むのだと噂していた。「ハナコ」と言葉にするのを怖れ「875」という符丁で呼んでいた。

実際には、ハナコはずっとトイレにいるわけではなく、学校で困っている子どもを助けて回っていた。迷子の一年生を誘導してあげたり、怪我をした子供を保健室に連れていったりした。焼却炉が破裂する事故があったときには、周囲に子どもが立ち入らぬよう奮闘していた。

祐子はハナコとの学校生活を楽しんでいた。

授業参観の日、義父が学校に訪れた。
義父が学校の女子トイレにカメラを仕掛け盗撮しようとしていたことを、ハナコが暴き、警察に通報された。

母親は義父と離婚し、祐子は再び東京に戻ることとなった。
新潟を離れる直前 7月最後の夜、祐子はハナコに呼ばれ学校に向かった。

  • 犬畜生な私

高校生の咲良は両親にねだって犬をプレゼントしてもらい、マークと名付け飼い始めた。

犬好きの同級生、在原誠也の気を惹くため、彼が好きだというパピヨンを選び、会話のきっかけにしていた。

その前の年、咲良は兄を殺していた。
自分を凌辱する兄を許せず、連れていかれた森の中で彼を殺し埋めた。タンタル失踪として捜査も打ち切られ、咲良に疑いの目がかかることはなかった。

ある日突然、咲良にはマークに兄の顔が見えるようになった。
徐々に追い詰められた咲良は、マークをを殺してしまう。

兄の顔が見えなくなり安心した咲良だったが、やがて周囲の犬すべての顔が兄の顔に見えるようになってしまう。

  • 月の虫送り

関根圭吾は東京にある大手総合商社に就職した。
だが仕事は面白くなく、東京での生活のペースとも合わず苦しさが募っていた。

初夏に童話作家だった祖母が亡くなったとの連絡を受け、敬語は故郷の新潟 下田に帰省した。
葬儀の翌日には東京に戻る予定だったが、故郷の空気を感じた圭吾は、その場で会社に退職を申し出た。

圭吾は祖母の遺品を整理していると、かつて祖母が話していた「ソラ虫」を収めていた箱が見つかった。

ソラ虫は幸運の生きもので、願いを三つ叶えてくれるという。空襲で家族を失った祖母は、一つ目に「故郷を離れた安寧の暮らし」を願い、二つ目に「空想を物語に仕上げる文才」を望んだ。
祖母は願い通り、新潟下田で穏やかな生活を送り、童話作家として成功をおさめていた。そして三つ目の願いは「一番大切な人のためにとっておく」のだといった。

遺品整理していた圭吾が箱を空けると、ソラ虫はいなくなっていた。
祖母の最後の願いも叶えられていたのだと知る。


圭吾が下田を歩いていると、ソラ虫が舞い降りてきた。圭吾は安定した仕事と生涯の伴侶を願い叶えられた。

最後の願いを考え、圭吾は祖母の最後の願いに思いを至らせた。

感想

「トイレの花子さん」や「人面犬」などの「都市伝説」をベースにし、新潟の空気感と合いまった、土着的なにおいのする物語だ。

「都市伝説」ベースとはいっても、怖さとか、説教臭い寓意を押し出されているわけではない。
「コントロールできない世界と対峙していく姿勢」が、主観的な幸せを変えていくようすが描かれている。

『875』で、小学生の祐子は自分ではコントロールできない世界に巻き込まれていく。客観的には怪異にに引き込まれたように見えながら、「怪異を受け入れた祐子の心」は主観的には不幸ではない。

『犬畜生な私』でも、主人公の咲良が世界に流されているのは同じだ。だが「受け入れがたい世界と戦おう」とした彼女は、客観的には上手くやっているように見えても、主観的には幸福ではないように見える。

『月の虫送り』の圭吾は、「自分の認識を超えた怪異に感謝」している。祖母への感謝、怪異への感謝が、幸せを回し増幅させている。

大いなる自然、コントロールできない運命に対し
逆らって自分を通そうとすれば、しっぺ返しを受ける。
受け入れれてしまえば、心は安らぐ。
感謝することができれば、幸せを世界に振り分けることもできる。

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