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この本を盗む者は

この本を盗む者は

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いつかは想像力を追い越して「物語の呪い」から解放されたいものです。

あらすじ

読長町に暮らす御倉深冬が主人公。

深冬の曽祖父は本を愛し膨大な蔵書を集めた。読長町の読書家たちは御倉館を訪れ本を読んでいた。

曽祖父の没後、深冬の祖母が跡を継ぐ。だが本の貴重な盗難に怒った祖母は、一族以外の御倉館への立ち入りを禁じ、厳重な防犯システムを導入した。

さらに祖母は、盗んだ者が本の世界に閉じ込められてしまう「呪い」をかけた。


ある日、深冬は本の盗難事件に巻き込まれる。
御倉館に突然現れた 真白 という犬耳の少女と共に本の世界に入り込み、本を盗んだ犯人を探していく。

深冬と真白は
・魔術的現実主義の旗に追われるファンタジー『繁茂村の兄弟』
・固ゆで玉子に閉じ込められるハードボイルド『BLACK BOOK』
・幻想と蒸気の靄に包まれるスチームパンク『銀の獣』
・寂しい街に取り残されるミステリ『人ぎらいの街』
という4つの物語に取り込まれていった。

そして最後には、呪いが生まれた真実の理由を知る羽目になる。

感想

本の世界に入り込んで冒険するという、本好きによる、本好きのための王道ファンタジーでした。

最後はハッピーエンドともバッドエンドとも解釈できるけれど、結局「本の呪い」から逃れられない私たちは、本を読み本を書き続けることになるのでしょう。


以下、ラストの解釈にについて、ネタバレ入りますのでご注意ください。





ラストは様々な解釈が可能です。

最終章で深冬は「あの物語の世界から連れ出す必要がある」と自分で本を書き始めました。
しばらく深冬の物語が続きますが、数ページで書き手の視点=現実世界の視点に戻ったようにみえますね。

そしてそこで深冬は真白と再会します。深冬の想像力が作り上げた友だち、イマジナリ・フレンドとの再会です。


①素直に読んでそこが深冬の現実世界だとすると「深冬は現実に真白に出会った」ということになります。
「大人だって現実世界で想像力と一緒に生きることができる」という意味で捉えれば、超絶ハッピーエンドなのだと思います。

もちろん、まだそこも深緑野分さんの物語の中なのですが、それでも想像力の重力から解き放たれたような清々しさを感じまました。


②若干捻くれて「深冬はずっと物語の中にいて、真白と再会した」という読み方をすると、深冬は「自分の物語として意図的に真白を作り出した」ということになるのでしょう。

「自分の物語は自分で紡ぐ」という姿勢も良いのかもしれません。でもどこか閉塞感を覚えてしまうところもあり、個人的にはバットエンド扱いです。

本の呪い、物語の呪い、想像力の呪いから、いつかは逃れたいものです。


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