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「言葉にできる」は武器になる。

「言葉にできる」は武器になる。

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要約

コミュニケーションでは「いかに伝えるか」というテクニックも重要だが、それ以前に「伝えるべきもの」を自分の中で育てることが大切。
本書では、まず「考えを深める方法」を伝え、それを外に表す方法としてアウトプットの技術を解説する。

  • 「内なる言葉」と向き合う

相手に理解させるだけでは不十分。納得し共感して行動を起こしてもらうためには、高いレベルでのコミュニケーションが必要だ。

「外に向かう言葉」だけを磨こうとしても、納得感は生まれない。
「無意識のうちに頭に浮かぶ感情」だったり、「自分自身と会話し考えを深めている言葉」といった「内なる言葉」を育てることが大切。

「内なる言葉」を意識しないと「考えたつもり」で思考が止まってしまう。
「抽象的にしか考えていなかった」「一貫性がなかった」「同じところで考えがめぐっていた」ということになりがちだ。

まずは「内なる言葉」を育て、それから「外に向かう言葉に変換する」というプロセスが必要。

言葉で「人を動かす」ことはできない。だが「人に動きたいと思わせる」ことはできる。そのためには「志」が必要で、自分の考えを深めることが不可欠だ。

  • 正しく考えを深める「思考サイクル」

「考えているつもり」で思考停止しないよう「内なる言葉」の解像度を上げる必要がある。

思考を漠然としたものではなく「内なる言葉」と捉え、俯瞰した目で観察し、解像度を上げるための、7つの「思考サイクル」を紹介。

①書き出す
A4の紙1枚に、1つのメッセージをとにかく書き出していく。
紙に書きだすことにメリットは多い。
「どれだけ考えているか」が可視化され、外だしすることで脳のメモリが空き、「思考が断片的」であることに気づける。

②T字型思考

書き出した言葉を核に「なぜ?」「それで?」「本当に?」という3方向で思考を深めていく。
思考の抽象度を意識し、枝葉に入って迷子になってしまったときは、抽象度を上げて見直す。

③グルーピング
書いた紙を同じ仲間同士に分類する。
グループの種類の多さで「方向性の幅」、グループごとの枚数で「思考の深さ」が認識できる。

④視点の拡張
グルーピングの結果を受け、「幅が狭い」ところでは欠けている部分を補い、「深さが浅い」ところでは思考を深めていく。

⑤考えを寝かせる
ここまでの作業をした後、いったん離れて数日寝かせる。
アンテナを立ててから放置することで「セレンディピティ(計画的な偶然)」を起こすことができる。

⑥逆を考える
考えを寝かせた後、改めて視点の拡張に取り組む。
真逆の視点で見直すと思考を広げやすい。
・否定:やりたい↔やりたくない
・反対:やりたい↔やる義務がある
・人称:私が↔あなたが
のような「真逆のバリエーション」をつかい、見直してみる。

⑦他の人の視点で考える
特定の誰かを思い浮かべ「その人だったらどう考えるか」を想定してみる。
自分の立場で考えていると、専門性や苦手意識、前例、時間やコストなどに縛られてしまう。

  • プロが行う「言葉にするプロセス」

「内なる言葉」が充実していれば、「外に向かう言葉」の味付けは最低限でいい。もっとも重要なのは「思いをさらけ出すこと」だ。

「内なる言葉」に形を与え、思いを出し切るための戦略として「言葉の型を知る」ことと「思いをさらけ出すための心構え」を紹介する。

ことばの型
①たとえる
分かりやすい比喩でイメージを共有する。自分の周りにあるモノから拾う。

②繰り返す
繰り返すことで大切な部分を強調し、文章にリズムを持たせる。

③ギャップを作る
対義語を並べることで印象を深める。「言いたいことの逆」から入り「言いたいこと」を重ねるのは有効。

④言い切る
断定する強さが人を引っ張る。

⑤呼びかけ
呼びかけ、語りかけるような言葉が相手に響く。


心構え
①ターゲティング

多くの人を対象にする商用コピーライティングでも、具体的な一人の人格をイメージして書く。「誰にも当てはまる」ことは「誰にも当てはまらない」

②常套句の排除
常套句には思いが乗らない。噛み砕いて意味を掴んでから使うべき。
相手と自分の間だけで通じる言葉は深く伝わる。

③一文字でも減らす
まずは頭に浮かんだ言葉を一気に書き出す。
それから、指示代名詞、接続詞、主語など、削っても意味の通じるものを必要最小限まで削っていく。

④音読してみる
文章のリズムは大切。
書いた文章を黙読すると意味は通じていても、音読すると詰まる部分がある。読み手に取って読みにくい箇所は、文章全体の理解を妨げる。
頭の中ででも音声化してリズムを確認するべき。

⑤動詞にこだわる
副詞や形容詞でバリエーションを持たせるよりも、修飾を減らし動詞自体にこだわった方が、力強い文章となる。
「がむしゃらに走った」「汗だくで走った」などで「走る」を修飾するより、「走り切った」「疾走した」など、動詞のバリエーションで工夫したほうが良い。

⑥新しい文脈を作る
「全然」が肯定の意味で使われるようになったように、言葉の使われ方は変化していく。新しい使われ方を受け入れていく。
さらに新しい意味を発明すると、新鮮な印象を与えられる。
「○○って、△△だ」のような枠組みが、新しい発想を助ける。「生徒って、先生だ」「仕事って、遊びだ」のように。


⑦似て非なる言葉を区別
言葉にこだわることで意味の解像度を上げる。自分自身がこだわって区別する言葉のリストを作るといい。
「知識は知っていること、知恵は自分のものとして使えるもの」など。

感想

「ちゃんと伝えるためには、伝えるべきことがなければならない」
当たり前だけど見過ごしがちだ。
「内なる言葉」を育てることが大切なのだと実感する。


「思考を深めていく方法」を紹介する本はたくさんあるが、「紙に書きだす」ことは大体共通している。A4用紙だったり、ノートだったり、ポストイットだったりバリエーションはあるが、とにかく「紙に書く」ことを勧めている。

そういう本を読むたびに何度も挑戦してみるのだが、どうも続かない。
パソコンやスマホでは毎日数千文字は書いているし、書くこと自体は苦手ではない。デジタルネイティブでもないし、紙に書いた方が思考が整理されることは実感として理解できる。
それでも「紙に書く」というのは、やたらとハードルが高いのだ。

「机の上に紙を広げる」というのは物理的に難しいし、ノートを常に持ち歩くというのも現実的ではない。さらに「飾らない本音」を紙に書きだすのはセキュリティー上不安でしょうがない。というか見られたらヤバイ。

手書きがキーボード打ち込みより効果的なのは、少なくとも自分にとっては間違いないが、「紙に書く」という行為が浮いてしまう昨今、置き換えられるデジタルツールを見つけたい。

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