准教授・高槻彰良の推察 民俗学かく語りき
こちらで購入可能
あらすじ
大学一年生の深町尚哉は「人の嘘が分かる」特殊能力を持っていた。
かつて尚哉が10歳だった頃、風邪で夏まつりに行けなかった。深夜に目が覚めた尚哉は、まだ聞こえていた太鼓の音に引き寄せられ、お面をかぶって祭りに向かう。
だが祭りの様子は普段と違っていた。今までは無かった青い提灯があり、全員がお面をつけて誰も何もしゃべらない。そこには死んだはずの祖父がいて、「お前はここにいてはいけない、帰るためには代償が必要だ」と言われる。
「リンゴ飴を選べば歩けなくなる、アンズ飴を選べば声を失う、べっこう飴を選べば―になる」と選択を突き付けられた尚哉は「べっこう飴」を選んだ。
それ以降尚哉は、誰かが嘘をつくとその声が歪んで聞こえるようになった。
大学に入った尚哉は、一班教養として高槻彰良 准教授の「民俗学」を受講した。現代の怪談や都市伝説についての講義だった。
高槻は学生から「不思議体験の話」を集める。尚哉は「嘘を見抜く力」は隠しながら、10歳の夏祭りの体験をレポートに記した。
尚哉が書いた不思議体験に興味を持った高槻は彼を呼び出し詳しい話を聞き、「怪奇現象調査の助手」のバイトに誘う。
- いないはずの隣人
ネットで怪奇現象の情報収集をしている高槻に、一人暮らしのOL 桂木奈々子が、隣室から異音が聞こえると訴えてきた。
大家に確認し隣室を調べても誰もいない。部屋を紹介した不動産社員に話を聞くと、奈々子の部屋は事故物件ではないが、異音がするという隣室で以前自殺者が出たのだという。
高槻と尚哉は奈々子の部屋に泊まり込み、怪奇現象の原因を探る。
- 針を吐く娘
幽霊画展を見に行った高槻たちは、受講生の 原沢綾音、牧村琴子に会い、怪奇事件についての相談を受ける。
綾音と琴子は、夜の日比谷公園で、釘や針が刺された藁人形を見たという。そしてそれ以降、綾音の周りに、よく針が落ちているのだという。
話をしている途中、綾音の食べていたケーキから針が現れ、口を切って出血してしまう。一緒にいた琴子は怯えて泣き出してしまった。
高槻は「最近、綾音と琴子の近くで見かける男子学生」についての情報取集を尚哉に依頼する。
綾音と琴子と男子学生の関係から事件の真相が見え始める。
- 神隠しの家
女子高生の水谷はなは、高槻に友人の松野紗雪について相談してきた。
紗雪から「お化け屋敷」と噂される廃屋での肝試しを提案したきたが、はなは断ってしまった。一人で廃屋を訪れた紗雪は数日後に遠く離れた場所で発見され、その時の記憶を失っていた。
はなは、紗雪一人で行かせてしまったことを自分の責任だと考え、何があったのか探ろうとして、高槻に調査を依頼してきたのだった。
高槻と尚哉は廃墟に乗り込み、真相を探る。
感想
オカルト要素を組み込んで、ミステリとして成立させるのは難しそう。「壁をすり抜ける霊」と「密室トリック」を共存させるのは無理がある。
それでもオカルトとミステリが組み合わされるのは、そこに共通した「怖さ」があるからだろうか。
高槻は、
わからないものは怖い。だから、人はそこに理由づけをする。解釈を行う。
大事なのは、現象に対してどのような解釈をするかということ。
下手な解釈は、現象そのものを歪めることがある。
と言う。
そう、「分からないものは怖い」のだ。
ホラーの怖さの本質は、理解できない現象や、理解できない人間の行動だ。だから無理やりにでも「合理的」な理由づけで安心しようとする。
ミステリが読者を引き込む力の本質も「わからないことを放置できない」ことにある。読みかけで理由がわからないと気持ち悪い。
オカルトとミステリを融合させる手法はいくつかある。
綾辻行人さんの『Another』のように、オカルト現象を全面肯定した上で、その中でのルールでミステリを構築するものもあるし、「オカルトに見える現象を引き起こした現実的な解」を探っていく作品もある。
相沢沙呼さんの『Medium』など、両者を組み合わせたハイブリッドもある。
本作は「オカルトに見える現象を引き起こした現実的な解を探す」スタイルだが、語り手視点には「オカルト」が入り込んでいるという構成で、なかなか興味深い。