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連続殺人鬼カエル男

ネタバレあり『連続殺人鬼カエル男』

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あらすじ ⁻ ネタバレあり

最初の被害者は二十代の女性「荒尾礼子(アラオ・レイコ)」 だった。

彼女は人の少ないマンション13階の昇降口に吊るされていた。
ブルーシートにくるまれ、フックを口にかけられて腐敗しかけていた。死体のそばは拙い文字で「きょう、かえるをつかまえたよ。~くちからはりをつけてつるしてみよう」と書いたメモが残されていた。

埼玉県警捜査一課の刑事古手川は、班長の渡瀬と一緒に事件捜査に当たる。
古手川たちは犯罪心理学者である御前崎宗孝教授に話を聞いた。教授は犯人の幼児性を強調し「幼児は飽きるか叱られるかしない限り、気に入った遊びを止めない」と語り、今後も連続殺人となる可能性に警鐘をならした。


二番目の被害者は72歳の男性 「指宿仙吉(イブスキ・センキチ)」だった。

彼の遺体は廃車のトランクに入れられ、廃車工場のプレス機で圧縮された状態で発見された。ここにもまた「きょうもかえるとつかまえたよ。~きょうは、いたにはさんでぺちゃんこにしてみよう。かえるはぜんぶぼくのおもちゃだ」というメモがあった。

いつしか犯人は「カエル男」と呼ばれ恐怖の対象となる。

被害者の指宿は人徳があり人間関係は良好で、資産を持っているわけでもなく、殺人のターゲットになるとは思えない人間だった。
古手川刑事たちは、第一の被害者である荒尾との接点を探ったが、どうしても関連性が見つからなかった。

警察では、過去に犯罪を犯したが精神鑑定などで無罪となった人間を、犯行のおそれがある虞犯者としてリストアップして調査した。
古手川は、4年前に幼女を考察したが精神鑑定の結果不起訴となった「当真勝雄(トウマ・カツオ)」の調査に向かう。

当真は歯科医で事務員として働きながら、保護司の「有働さゆり(ウドウ・サユリ)」の元、ピアノを通した「音楽セラピー」を受けていた。

古手川は、さゆりの息子「有働真人(ウドウ・マサト)」が同級生にいじめられているのを見て怒り狂う。真人の身体には、服に隠れ見えない部分に残された青あざが、長期に渡って暴力があったことを示していた。

真人を守った古手川は、彼から「初めての大人の友達」だといわれ手作りの風車をもらう。また彼はさゆりのピアノを聞き、その力に圧倒された。

3番目の被害者は、有働真人だった。
公園の砂場で身体が切り開かれ、内臓が整然と並べられていた。ここにもメモがあった。「きょう、がっこうでずかんをみた。かえるのかいぼうがのっていた。~ぼくもかいぼうしてみよう」

さゆりは焦燥し古手川も犯人への怒りで震えた。

新聞記者が、犯人の名前が「ア・イ・ウ」と五十音順になっていることを指摘する。その単純さは犯人の幼児性を改めて強調し、また「大した理由なくターゲットが決められている」ことが「誰もがターゲットになり得る」という恐怖を引き起こした。

4番目の被害者は、弁護士の「衛藤和義(エトウ・カズヨシ)」だった。

衛藤は首を絞められた後、火を付けられ燃やされていた。ここにもカエル男のメモが残される「きょうつかまえたかえるはしにかけていた。もううごかないからつまらない。だからもやしてみた。~すごくたのしかった」と。

衛藤は人権派の弁護士として活躍していたが、糖尿病を悪化させ入院生活をしていた。個人情報保護の観点から衛藤がこの病院にいることはごく限られたものしか知らず、犯人がどうやって彼の居場所を突き止めたのか不明だった。

カエル男の狂気に恐怖した民衆は、警察が過去の犯罪者や精神病者などの「虞犯者リスト」を作っていることを知り、その公開をもとめて警察署に乗り込んだ。

警察署で起きた乱闘で古手川は重傷を負う。
だが、さゆりから「当真の勤務している歯科医がデモ隊に包囲されている」という連絡を受け、彼の救出に向かった。

歯科医にたどり着いた古手川は、ある可能性に思い至った。

感想

またまた凄い作品だった。
後半に入って急加速する伏線回収に、気持ちよい「騙された感」がある。
グロい表現は苦手だが、ミステリ・サスペンスとしては爽快感のある話だった。

その中に、結構重たいテーマを多数ぶち込んできている。

一つ目は古手川の成長だ。
少年時代、古手川は同級生へのいじめを止められず、その心境も理解できなかった。最後に彼が古手川をなじり自殺したことが心の傷となっていた。
古手川は、いじめに関わった者たちへ「復讐」していった。その復讐が彼にとっての「正義」になり、やがては警察官を目指すようになる。

だが古手川は、事件とぶつかり渡瀬の話を聞き
「復讐ではなく救済のため」に闘うことをしっていく。

本作ではアクションヒーローばりのハードボイルドだった古手川が『ヒポクラテス・シリーズ』では、なんだか頼りないいじられキャラになっていた。
でもこれは「成長」なのだ。守るべきものを守り、誤ったものを救う。そっちの方がカッコいい。


「心神喪失者の行為は罰しない」という刑法39条の扱いも重大なテーマになっている。
御前崎教授は「裁判を受けるのは権利であり、罰を与えられて罪を償うのも権利なのだ。39条は患者を救うのではなく、その権利を奪っている」のだという。

精神鑑定の恣意性だとか、再犯リスクといった面から39条が問われることが多いが「罪を犯した人の贖罪」という視点は独特だ。
例えば自分が人を殺したとして「あなたは心神喪失状態にあったから無罪」といわれたらどう思うのだろうか。刑罰を逃れることと、責任能力がないという烙印を押されること、どちらが本人にとって重いのだろうか。
著者の「御子柴礼司シリーズ」は重たくて敬遠していたのだが、この辺を掘り下げている。あらためて読んでみたいと思った。

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