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外資系コンサルの知的生産術~プロだけが知る「99の心得」~

外資系コンサルの知的生産術~プロだけが知る「99の心得」~

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要約

論理思考やフレームワークを学んでも知的成果が出せないのは、「行動の技術」がボトルネックになるから。
「知的生産のための戦略・インプット・プロセッシング・アウトプット」と「知的ストックを厚くする方法」を開設する。

  1. 知的生産の「戦略」
  • 顧客知識との差別化
    「顧客が既に持っている知識との差別化」を意識する。
  • 新しさの出し方
    「新しさ」は「広さ」か「深さ」で出す。
  • 顧客の明確化
    誰が「知的成果の受け手なのか」を意識する。
  • 要求品質を抑える
    顧客が「何をどのレベルで知りたがっているのか」を明確にする。
  • 使えるリソースを確認する
    使える時間、人、お金を確認し「求められるクオリティを達成できるか」の見通しを立てる。
  • 期待値コントロール
    顧客の要求水準とリソースのバランスが取れない場合、制約条件を早い段階で開示する。顧客との同意に至らなくても「乖離している」ことは伝えるべき。
  • 指示は「問い」でだす
    「〇〇について調べて」ではなく「〇〇の質問に答えが出せる資料を集めて」というように、具体的な問いをイメージして指示を出す。

2.インプット

  • 情報ソースは幅広に
    「社内と社外」、「人の声と文書」のマトリックスを意識して、広範囲の情報を取る。特に「社外の人」からの情報取りには時間がかかるので、最優先でスケジューリングしていく。
  • 良い質問は良いインプット
    事前にはっきりさせたいポイントを明確化し、できる限り具体的な質問に落とし質問に落とし込む。紙に書き出すと良い。聞いている最中に「分かったふり」をしないことも大事。‘
  • インプットの前にアウトプットをイメージ
    情報を集める段階で「どのようなアウトプットをするのか」をイメージしておく。
  • 強いのは一次情報
    相手が関心を持っている内容であればある程度の二次情報は持っていると考えるべき。直接聞いた一次情報で差別化を図る。
  • 現場観察を活用
    現場情報を集めるには「ある程度まとまった時間をかけ」「観察者への影響が少なくなる方法をとる」ことが大事。
  • 仮説は捨てるつもりで
    現場を観察するのに、ある程度の「仮説」を持って当たりをつけることは大切だが、実際に見る段階では「仮説」にとらわれないことが大切。
  • 情報量は運動量
    情報収集は「腰の軽さ」が肝。「まず行ってみる」「まず聞いてみる」
  • 「とにかく、なんとかする」という意識
    そのものズバリの情報などまず手に入らないと思うべき。「それでも、逆立ちしてでも捻り出してみる」という気構えが知的生産の基礎体力を育てる。
  • 学習のS字カーブ
    ある程度の学習をしないと成果が出ない。またインプット量を増やし過ぎても効果が薄くなる。専門的に深めるのでない限り、ある分野について5冊程度の本を読めば十分。

3.プロセッシング

  • 文脈を意識
    集めた情報を分けたり、組み合わせたりして「示唆や洞察」を引き出すのが「プロセッシング」
  • 行動を提案
    ビジネスにおける知的生産は「行動の提案」まで踏み込んで初めて価値を生む。「ではどうするべきか」という問いに答えを出す。
  • ポジションを取る
    異なるポジションを取る人と摩擦を起こすにしても、自分としての「ポジションを明確にする」ことが大切。情報が不足していても「その時点でのベストエフォート」でポジションを取る。ポジションがなければ、ただの評論家。
  • 「考える」と「悩む」
    人間は長い時間「考える」ことはできない。「手が動かなくなったとき」「言葉が生まれないとき」は、「考えている」のではなく「悩んでいる」
    切り替えて別の方法を取るようにする。
  • 答えに来させる
    「よい答え」は力づくに出すのものではなく、ごく自然に目の前に立ち現れるもの。
  • 「長く」ではなく「何度も」考える
    長く考えるよりなんとも考えた方が突破口を見つけやすい。5分程度の思考を、時間や場所を変えて繰り返すのが有効。
  • 分析以外のモードを使う
    知的生産においては「分析」と「統合」をシームレスに繋いでいくことが必要。
  • 論理と想像のモードを使い分ける
    論理を積み重ねていく「ロジカル」なモードと、積み重ねを省き一気に創造する「ラテラル」なモードを切り替えて使う。
    前半では「分析」の能力が求められ、後半では「統合」と「創造」が求められる。「論理」は全ての段階で必要とされる。
  • オチからの逆算
    本当によい答えは、緻密な思考を積み重ねるより「ハッ」としたときの天啓のように与えられる。直感を大切にするべき。
  • 理性と感情の動員
    適切な意思決定のためには「理性だけでなく情動」が不可欠。意思決定には感情を排すべきというのは誤り。
  • 立場と論理を混同しない
    「偉い人がいうから正しい」というのは知的な態度でない。
  • 音声化と視覚化
    紙に書き出すことで「音声化」と「視覚化」の両方が行われ、音声で聞き流しているだけでは気付かない点に気付いたりする。
  • とにかく紙に書く
    頭の中の情報や思考を、外に出して相対化する。
  • とにかく話してみる
    話してみることで思考が整理されポイントが明確化される。人の頭をプロセッシングに活用できる。
  • ヒューリスティックを意識
    完全に最適化された「オプティマル」な解決にはコストがかかりすぎる場合、現象から逆算して、まあまあ満足できる「ヒューリスティック」な解決を行うことが有効な場合もある。
  • 視点・視野・視座を変える
    考察対象の「時間・空間」を広げる「視野の拡大」、物事の多面的な側面に着目する「視点の変化」、立場を変えてみる「視座の変化」で見方を広げる。
  • アンラーンを繰り返す
    一度学んだことをまっさらにしてみる。環境変化が速い現代、数年前には有効だったコンセプトがすでに陳腐化しているかもしれない。
  • 「問い」に立ち返る
    考えていくうちに答えるべき「問い」から離れてしまうことがある。
    問いを明確化し、さらに問いの質を上げていく。
    問いの立て方が間違っていたならば、問いをずらしたり裏返してみる。
  • 用語の定義
    プロセッシングの質を保つためには、関係者間で「用語を厳密に定義しておく」ことが必須。
  • 思考停止ワードに注意
    「イノベーション」「グローバル化」など、その意味を考えず思考停止させないように気をつける。
  • 浅薄な帰納に流れない
    実例を集め帰納法で出した結論は「絶対に正しい」とは言い切れない。「今まで人は全員死んでいる。だから人は死ぬものだ」というのが帰納法の結論だが、演繹的に人が死ぬ必然性が導けない以上、ブレイクスルーがありうることは否定できない。
    浅い帰納法に流されないよう「反証例」を考えてみる。
  • 「なぜ」「もし」を使う
    帰納的な推論には「因果関係」は含まれない。その結論がどうして生じたのか、と考えることでイノベーションのきっかけとすることもできる。
  • 数値の皮膚感覚を磨く
    主要な数字の規模感を抑えておくと、プロセッシングの精度とスピー度が上がる。
  • 「人」を思い浮かべる
    対象を「自分ごと化」し、人が動くシーンを具体的に思い描いてみる。人の視点が抜けると乾いた表面的な考察になってしまう。
  • 定説に流され思考停止しない
    ある時代に現実をうまく説明できていた定説が今も機能するとは限らない。頭から「そういうものだ」と考えてしまうのは危険。学問で最も重要なことは新しい知識の蓄積ではなく、当たり前だと信じて疑わない常識お見直し。
  • 作用と反作用
    「極端なモノ・コト」の裏側には「逆側に極端なモノ・コト」が隠されていることが多い。目盛りが振れすぎている時は、その逆に着目すべき。
  • 「わからない」という勇気
    「わかっている」と「わからない」の見極めは難しい。「わかる方法」よりも「わからないと判断する方法」が求められている。

4.アウトプット

  • Less is More
    情報の量とクオリティーは逆相関する。相手に理解されない場合「情報が足りない」のではなく「情報が過剰」無ことが原因。いかに「少なく伝えるか」が大切。
  • What, Why, How
    アウトプットは「何を(what)、どうして(why)、どうやって(how)」のポイントで行う。相手の関心や同意・反感を見ながら順番や強弱を使い分けていく。
  • 抽象行動用語を使わない
    「検討する、推進する、注力する、連携する」など、具体的に何をするのかがイメージできない言葉を使わない。
  • ベクトルでなく到達点
    「どちらへ向かう」というベクトルではなく「何を達成する」という到達点を示すべき。
  • 説得より納得、共感
    意思決定において大切なのは「共感」。合理性は「割とどうでもよく」どれだけ合理的なプランでも共感を持って実行されなければ全く無意味だし、どれだけ非合理な計画でも関係者が熱を持っていると成功してしまう。「説得よりも納得、納得よりも共感」
  • 論理・倫理・情理のバランス
    人を動かすためには「論理=ロゴス」「倫理=エトス」「情熱=パトス」のバランスが大切。
  • 受け手の反応を予想し伝え方のアプローチを考える
    伝える相手が「共感し興味もある」場合、What→Why→Howの流れ。
    「共感するが興味はない」場合、同じ流れでHowを強調。
    「興味あるけど違和感がある」場合、Why→What→Howで Whyを強調。
    「違和感があり興味ない」場合、Why→What→Howで WhyとHowを強調。
  • アウトプットのフォーマットを決める
    Whyの部分は「事実」と「示唆・洞察」で構成される。事実の部分は「文章、写真、動画、音声」など定性的情報、定量的情報とでフォーマットを切り替えると効果的。
  • 質問には質問で返す
    質問は純粋にわからないことを聞くよりも「遠慮がちな反対意見」であることが多い。相手の「違和感」を探るチャンスになる。

5.知的ストック

  • 知的ストックで洞察力を上げる
    歴史的な知識などが、目の前の現実的な問題考察の助けとなる。
  • 知的ストックで常識の相対化
    目の前の世界が全てであれば「常識」に疑いを持つこともできないが、多くの時間・空間的にさまざまな状況を知ることで、「常識」を相対化でき、イノベーションにつなげられる。
  • 知的ストックで創造性を高める
    創造性の本質は「既存のアイデアの新しい組み合わせ」だ。どれだけ多くの知識をストックしているかが、どれだけ多くの組み合わせを生み出せるかにつながる。
  • ストックを厚くすべき分野
    著者がストックを厚くするべき分野とするのが「経営戦略、マーケティング、財務・会計、組織、リーダーシップ、意思決定、経営全般、経済学、心理学、歴史、哲学、宗教、自然科学、芸術」
    各カテゴリについて3〜5冊程度の定番概説書に目を通しておけば、一般的なレベルでの知的ストックは得られる。
  • 読みたい本だけを読む
    読書リストの機械的消化は勧めない。読んで面白い本は読み手の文脈次第。
  • 短期目線でインプット
    変化の激しい時代、将来をみた「目的主導型のインプット」は有効性を失っていく。「将来役に立つかもしれない」という打算的なインプットより「いま・ここ」ですぐ役に立つ、あるいは面白いという選好の方がずっと重要。
  • 心地よいインプットに用心
    興味があるものをインプットするのは良いが「共感できる・賛成できる」ものばかりを積み重ねるのは危険。知的ストックが偏って独善に陥る可能性がある。
  • 英語でのインプット
    コミュニケーションのツールとしての英語は必要なくても「インプットのツール」としての英語は必要。ネットの情報は英語の方が圧倒的にリッチ。
  • 常に「問い」を持つ
    インプットの質を高く保つためには「好奇心」が重要。心に浮かんだ問いを捕まえる能力が知的生産の根幹となる。メモを持ち歩くなどの工夫が有効。
  • ガベージイン=ガベージアウト
    質の低いインプットから質の高いアウトプットは生まれない。まずは品質が担保された定番書を抑える。また多くの情報を集めるより一冊の本を深く読むことで知的生産のベースとすることができる。
  • 身の丈にあったインプット
    定番書から読むことが進められるが、無理して読んでも消化できない。その人の置かれた状況や能力によって、面白いと思えるものは変わってくる。「面白くないなら自分にとって価値はない」と判断していい。
  • 欠損は構わない
    足りないことを埋めるより強いところを伸ばすべき。
  • 「いいインプット」の2つの軸
    世間の評価が高いか、自分にとって面白いかの2軸でインプット素材を判断する。面白いと思える名著なら読むべきだし、名著じゃないけど面白いものは差別化のポイントになり得る。評判の高い名著でも面白くないなら読むだけ無駄出し、評価の定まらないつまらない本は無視すべき。
  • 独学する
    中長期的に知的ストックを構築していくならば、独学を中心とした日常的な習慣。
  • 時間防御
    知的ストックの厚みはインプット量に比例する。時間という投資資源を守ることが大切。
  • 違和感を手がかりに世界を理解
    自分が属している社会から一旦離れ「ストレンジャー」として観察することで、全く違ったものが見えてくる。違和感を手がかりに、新たな気づきや学びの切り口をつかんでいくことができる。
  • 相対主義という「感性の鈍磨」
    ものごとの違いは「相対的なもの」であるのは間違いないが、文化間の違いを「相対的」だと無感覚に受容してしまうと、差異に鈍感になってしまう。差異を生み出す構造的要因まで踏み込んだ上で、その違いをリスペクトするべき。
  • 冷蔵庫ではなく「イケス」
    情報インプットの際は「記憶に頼らない」
    海に泳ぐ魚という情報を冷蔵庫に保存するのではなく、イケスを作り、すぐに捕まえることができる状況で放流しておくのが有効。

感想

「外資系コンサル」というと、ガリガリの「ロジカルシンキング野郎」というイメージだが、本書では「情動を含めた行動」に目が向けられていて、その泥臭さに好感を覚えた。

例えば、人を説得するのに「合理性に意味がない」と指摘する。極端すぎるかもしれないが完全に同意したい。
熱量を持っている人は「適当なプラン」でも成功させてしまうし、どれだけ合理的・論理的に説得しても、関係者を巻き込めなければ何事もなせない。

また「常識を疑え」というメッセージを陳腐だと切り捨てる。
そこには、「常識が根強く動かし難いものになっている理由」への洞察が欠けていて、「常識を疑うコスト」が考えられていない。必要なのは「見送っていい常識と、疑うべき常識の選球眼」なのだという。この辺りの語り口に「論理より行動」を感じらるのが、好感触だ。

「目的主導型のインプットは有効性を失っていく」というのも、実感に即していて受け入れやすい。

実利的でヒューリスティックな、「行動者」を感じさせる著者に好感を覚えた。

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