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ビジネスケース『キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学』―一橋ビジネスレビューe新書No.7

ビジネスケース『キーエンス~驚異的な業績を生み続ける経営哲学』―一橋ビジネスレビューe新書No.7

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要約

産業機器向けセンサーなどの部品製造販売で、長年に渡驚異的な営業利益率を維持している「株式会社キーエンス」の研究。

  • 付加価値創造と社会貢献

キーエンスでは「新たな価値を創造することこそが社会貢献」だと考える。

社会貢献として文化支援などを行うのではなく「自社の得意とする分野で新たな価値を作る」ことが社会貢献であり、高い利益をあげることは税金の支払いでも社会貢献をしているといえる。
また従業員に対しても、中途半端な福利厚生よりも明確な高給で報いている。

  • 徹底的に考える組織文化

「新たな付加価値の創造」こそが社会貢献と考えるキーエンスでは、個々の従業員が「どうすれば顧客がより喜び大きな価値を感じてくれるか」を考え、また「どうすればそれを最も低コストで作り上げることができるか」を考えている。

従業員に「徹底的に考える」ことを求め、組織的なポジションに関わらず「一番考えた人が判断する」という文化が根付いている。

  • 顧客価値の提供

電子部品業界では代理店販売網に頼るケースが多いが、キーエンスは直販志向で自社の「コンサルティング営業部隊」が、顧客現場からニーズを探り出す。
開発担当の技術者でも半年に渡り営業を経験できる制度もあり、「顧客から顕在・潜在ニーズを聞き出す」ことが徹底されている。

  • 付加価値の計測

全社で月次営業利益が共有されるだけでなく、事業部・個人レベルで理由・遠因を分析し改善している。
一人当たりの「時間チャージ」が意識され、プロジェクトリーダーは「どれくらいのレベルの人を組み込むと、いくらくらいのコストがかかるか」を意識する。また会議などにも「何人・何時間」とコストを意識している。
製品のリリースが遅れればそれだけ「販売機会が失われた」ロスとなるため、スピード感も重要視される。

感想

高利益率の仕組みはシンプルだ。
「安く作って」「高く売る」というだけ。

高く売るためには「顧客」を意識することが必要。
安く作るためには「コスト」を意識する事が必要。

シンプルだけれど、地道に実行し続けるのはむずかしい。

キーエンスから転職してきた人の話を聞くと、まあ「ブラック」だ。
平均給与は1300万円とメーカーにしては高めだが、離職率は高いらしい。
「30代で家が立ち、40代で墓が立つ」と言われている。

「高利益をあげて、税金で社会貢献」という言い方も好きになれない。
巧言令色を尽くしても「利益率指向」は、ステイクホルダーの中でも「株主」しか見ていないのだと感じてしまう。
従業員や顧客、サプライヤや地域社会などのバランスも大切だと思う。

日本メーカーが、軒並み苦境に立たされている中、比較的気を吐いているのは「部品メーカー」であり、頑張って欲しいという気持ちはある。

半導体や液晶のような「大ロット大量生産」であれば、資金力で勝負がついてしまうが、センサーやパッシブ部品などでは「少量多品種」の柔軟性が強みになったりする。
セットメーカは自社製品の売れ行きで簡単に淘汰されてしまうが、部品屋は「その時に売れてるセットメーカー」についていけばいいので、販売機会は意外と広い。

「顧客のニーズを先取りして高付加価値」だとか言い出すと「柔軟性」という強みを失ってしまうし、従業員主導で「コスト削減」を徹底させたりすると、結局は「規模の経済」に巻き込まれ、中国などの巨大資本に飲まれてしまう。

なんかどこかで聞いたことがあるような話ばかりで食傷気味だ。

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