彼女が死んだ夜
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あらすじ
「匠千暁シリーズ」の第一弾。
ハコ(浜口美緒)は、厳格な両親を口説き落とし海外留学を認めさせた。
出発の前夜、ハコが大学の友人たちが催した壮行会を終え家に戻ると、リビングに見知らぬ女性が倒れていた。その横には、髪の毛の詰められたパンティストッキングも置かれていた。
ハコは、面倒ごとに巻き込まれ、苦労して勝ち取った海外留学にいけなくなることを恐れる。自分に想いを寄せているガンタ(岩田雅文)を呼び、警察には通報せず、動かなくなった女性をどこかに捨ててくれるよう頼んだ。
酒に酔っていた岩田は車に乗って来なかったため、ボアン(辺見祐輔)とタック(匠千暁)を呼ぶ。二人は死体遺棄罪に当たると二人を諌めたが、最終的にはガンタに車を渡し、女性を運ぶのを黙認した。
翌朝、公園で死体が発見されたことが報道される。
状況を知ったタカチ(高瀬千帆)は、犯罪隠蔽に協力した3人を責め、自分たちの手で犯人を暴くよう動き出した。
事件のあった数日後、ハコから留学先のフロリダに着いたという手紙が送られてくる。当然、事件には一切言及していない内容で、関わった友人たちは憤りを感じた。
また、ハコの壮行会にも参加していた宮下伸一の行方がわからなくなっていた。
事件当夜、ボアンたちは宮下のアパートにも行っていて、誰もいないことに気づいていたが、当分実家に帰ると聞いていたので気にしていなかった。
だが宮下の実家から「宮下と連絡がつかない」とボアンたちに電話があり、彼が実家に帰っていなかったことが判明する。
ボアンたちが宮下がいたアパートを調べていると、インテリヤクザ風の男たちに絡まれ暴行を受けてしまった。
数日後、ボアンたちは、ヤクザ風と一緒に宮下を探していた女性 阿呼ルミに話を聞きにいく。彼女は「宮下の行方は全くわからない」と言いながら、浜口美緒(ハコ)との関係を仄めかした。
無関係に見えていた、女性殺人事件と宮下の失踪がつながる。
タックは、現場に残された品々から「妄想」を広げ、真相に迫っていく。
感想
論理を積み重ねた演繹的な推理ではなく、「妄想」的なラテラル思考に、伏線となる事象を当てはめていく、どちらかというと帰納的な推理スタイルだ。
その分、若干強引に感じるところもあるが、複雑な伏線をきっちり回収しきる手腕は流石だと思う。
また、印象に残るのは、各登場人物を通して見える作者の「人間観」だ。
必要以上に相手に踏み込もうとしない。情感も含めて、即物的で実利的に見ようとする。なのにそれでも、人の温もりを求めてしまう人間臭さが、登場人物たちの魅力になっている。
男女が別れる理由が「自分は愛されているという根拠ない自信を失うから」だというのは、乾いた人間観と愛憎を求める心のせめぎ合いを、よく表現して居ると思う。
特徴的なのは「エピローグ」だ。
ミステリ的に見れば「どんでん返しのどんでん返し」は必要ない蛇足だし、正直読後感が悪い。
それでも敢えて、このエピローグを入れたのは「実利的に人をみるドライさ」と「愛憎から離れられないウェットさ」の対照を際立たせたいからなのだろう。
やっぱり面白い作品だ。