身代わり
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あらすじ
タック(匠千暁)、タカチ(高瀬千帆)、ウサコ(羽迫由起子)、ボアン(辺見祐輔)4人のミステリシリーズ第6弾。
物語が大きく動いた『依存』に続く話で、4人の関係性の変化が見える。
ボアンたちは、いつものように友人を集め飲んでいた。
しばらく休学していた曽根崎も顔を出したが、二次会には参加せずに帰っていく。
その日の深夜、曽根崎は刃物で刺され死亡した。
目撃者の盛田は、曽根崎が女性を襲い、反撃されて自分に刃物が刺さって死んだのだと証言する。
事件の状況に違和感を覚えたボアンは、目撃者の盛田や刑事の七瀬たちと接触し、何が起こったのかを推理していく。
曽根崎の友人石丸は、曽根崎が石丸の従姉と付き合って別れたが、いまだ執着していたことを告げる。彼女はすでに結婚しイタリアに転居していたが、事件現場は彼女がかつて住んでいた場所の近くだったことから、曽根崎は彼女に会いに行こうとしていたのではないかと考えた。
だが、曽根崎が飲み会から帰るときには手ぶらで凶器の刃物を手にしておらず、時間的にも途中で調達するのは不可能だった。ボアンは彼の犯行であることに疑いを持っていた疑いを持っていた。
その翌日、女子高生の鯉登あかりと警察官の明瀬が殺される事件が起きた。
家にいたあかりは殴られた上で絞殺され、明瀬もリビングで同じように殺されていた。
あかりを殺害した犯人が警察官に目撃されたため、彼も殺したのだと当初考えられたが、二人の死亡推定時刻が4時間は離れていることから、納得いく解釈ができずにいた。
あかりは、周囲とそつなく交流していたが、その賢しらな雰囲気が壁を作ってもいた。自分でコントロールする「万能感」を求めていた。呪いが成就する「天狗吊り」の噂を流して、それが広まるのを楽しんだりしてもいた。
文学に興味を持ち司書の芳谷朔美と親しくしていたが、朔美を主人公とした猥雑な小説を書き彼女にみせたことから関係が悪化していた。
あかりが妊娠していて、その相手が朔美の婚約者だったことが判明したため、朔美とその婚約者の二人に容疑がかかったが、事件当日は二人とも海外にいたことから、容疑から外された。
殺された警察官明瀬と高校時代の同級生だったタックは、タカチに連れられ彼の葬儀に列席した。そこで佐伯刑事から事件の概要を聞いた。
数日後、4人目の被害者が殺された。
海外から帰国した朔美が殺され、天狗吊りの木の前に捨てられていた。
無関係にみえる事件をつなぐ鍵を、タックたちは見出す。
感想
それぞれの被害者は、何故殺されたのか、上質な「ハウダニット」ミステリだ。
ボアンの知人が「女性を襲って返り討ち」にされた事件と、女子高生と警察官が同じ現場で殺されていた事件。無関係にみえる二つの事件が「ハウダニット」を追うことでつながっていく。
実地捜査は最小限で、論理の積み重ねで推理する、安楽椅子探偵的な「純粋理論」ミステリだが、シリーズ初期作品と比べ、無理矢理感がなくて、自然に没入できる。
そしてまた、主人公たちの関係の変化が興味深い。
前作までに明かされたタカチとタックのそれぞれの過去が重く、雰囲気が暗くなっていた。でも本作で一歩ずつ前に進み始める二人の姿には力付けられ、彼らを支えるボアンとウサコも好きになる。
シリーズの作品世界にどっぷり使ってきた。
本作単独でも面白いけど、最低でも『スコッチゲーム』と『依存』は読んでからの方が絶対に楽しい。