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仔羊たちの聖夜

仔羊たちの聖夜

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あらすじ

匠千暁、高瀬千帆、辺見祐輔、羽迫由起子たちの、ミステリシリーズ。
時系列的には「彼女が死んだ夜」「麦酒の家の冒険」の後だが、彼らの出会いが描かれていて、シリーズ始まり感がある。
舞台が安槻で「七回死んだ男」の登場人物が出演してたりもする。

ボアン(辺見祐輔)の引き合いで、タック(匠千暁)と、タカチ(高瀬千帆)が出会った一年前のクリスマスイブに、マンションの屋上から女性が飛び降り、死亡していた。

ボアンたちが用意していた交換用のプレゼントに、そのときの女性のものと思われる包みが混じっているのに気付く。

タックとタカチは、亡くなった女性の遺族に、その包みを返しに行った。
彼女は結婚を控えた幸せ絶頂の時期で、自殺だったとは思えない状況だった。
だが、周囲の状況から、結局は自殺だと結論づけられていた。

彼女の両親が「そのプレゼントは婚約者に贈るものだったのだろう」というのを聞き、タカチは彼女のかつての婚約者と二人を繋いだ友人に会いにいく。

そこでそのプレゼントは、彼女が飛び降りたマンションに住んでいた、彼女の元カレに贈るものだったのだろうと聞かされた。

タカチたちは、彼女の元カレの話を聞くため、現場となったマンションを訪れる。

そこでマンションの大家に話を聞くと、その事件の5年前にも、高校生が飛び降りて自殺する事件が起きていたのだという。

彼のケースでも、進学校への入学が決まり、客観的には幸せだった時期の出来事だった。

同じような状況での飛び降りが続いていることに驚いたタカチたちだったが、今度はボアンの友人である大学講師が、同じ場所から飛び降り、一命はとりとめたが、意識不目の状態に陥った。

彼もまた結婚を間近に控え、幸せだったはずなのに、どうして飛び降りたのだろうか。

タカチとタックは、5年前の高校生、1年前の女性、そして今年のボアンの友人、3人の飛び降りの謎を、一つずつ紐解いていった。

時系列的には、この作品の後になる「スコッチ・ゲーム」で、タカチの高校時代が語られ、家族、とくに父親との密かな確執が描かれている。

本作も、親の子どもに対する「独善的支配」の醜さを暴き出している。

「悪意によるコントロールではなく、どこまでも善意によるもの」なのが、タチの悪い。非常に不健全だ。

子どもは「秘密を持つこと」で、健全な自我を育てる。自分で考えるための「心のスペース」が絶対的に必要だ。

本書では、自分の「心のスペース」が育てられず、人の「心のスペース」を尊重できずに、共依存的な関係に陥ってしまった人間の醜さが、グロテスクに描かれている。

一方で、タカチは「親が自分に依存していること」に自覚的であり、また「成熟した友人たち」に恵まれたこともあって、少しずつその軛を説いている、

タカチたちの関係は、一見、相手のプライバシーを無視したような、図々しい踏み込み方をしながらも、相手の「心のスペース」は尊重し、絶対に踏み込まない。実に心地いい。

まずは、自分が成熟しないといけない。

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