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太陽の坐る場所

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あらすじ

地元出身の有名女優「キョウコ」をクラス会に呼びたい、28歳の男女の物語。

半田聡美
半田聡美は、演劇に全てをかけていた。

高校時代は美人ポジションで、クラス会では「田舎から出てこない人たち」の、地味な生き方を、少し上から目線で見ていた。
友人たちに頼み込まれ、次回のクラス会に来てもらえるよう、キョウコに伝える役を押し付けられた。

映画関係の仕事をしている当時のクラスメイト里見紗江子の伝手で、聡美はキョウコと話をした。聡美はキョウコの輝きに圧倒される。

聡美は演劇の道を歩み続けていた。
働きながら小劇団に所属し、ギリギリの生活をしていた。聡美はキョウコに演劇を続けていることを伝えた。

聡美は戦いから降りた。

里見紗江子
里見紗江子は、自分を高みに連れていってくれる「素晴らしいもの」がほしかった。

自分の外見が十人並であることを自覚し、装いに拘りはないようにみせていたが、自分を高みに連れて行ってくれるものを求めていた。

紗栄子は、親友の松島貴恵の元カレで、既婚者の真崎修と不倫関係にあった。
「巧い」真崎が自分を都合よくあしらっていることに気づきつつ、その関係を誇っていた。

紗江子もまたキョウコに会った。
キョウコがクラス会に参加しないのは、彼女が当時付き合っていた清瀬陽平が原因だと考えていたが、キョウコはすでに清瀬に何の感情も残してはいなかった。

自分の価値観を通してしか、他人の心を推し量ることができなかった紗江子の心が揺さぶられる。
やがて、真崎との関係に変化が生まれ、親友の貴恵の本心を知ることになる。

紗江子もここで戦いから降りた。

水上由希
水上由希は上を目指していた。
「虎の威を借りる狐でいい。もっと強い虎を」と。

厳格な祖母に育てられた幼少時代から、自分のポジションを意識して行動していた。高校時代には、クラスの「女王」だった響子に近づき、彼女が落ち目になると、さっさと離れていく。

由希は、クラス会で「デザイナーとして働いている」と言ったが、実際には服飾メーカの契約社員だった。自分を美しく高く見せることに徹底してこだわっていた。

自分に好意を抱いている、島津謙太を利用し、キョウコの連絡先を聞き出した。だがキョウコは「あなたと話すことはない」と冷たくあしらう。

それでも由希は、戦いから降りなかった。

島津謙太
島津健太は高校時代のポジションを取り戻したかった。

女子たちと気楽に絡むことができた高校時代。だが社会人となった今、全てが空回りするようで、周囲の人間から浮いていることを自覚していた。

かつての楽しさを味わいたくて、毎年のようにクラス会を企画し、幹事として奔走していた。こだわりの強さに、思いを寄せていた水上由希からは引かれてしまう。

そんな謙太の務める銀行に、キョウコが手続きのため訪れてきた。
彼女は「島津の仕事は職場で認められている」のだと評した。

やがて、東京支店から地元に戻ることになった謙太。

謙太は、クラス会の幹事を高間に引き継いだ。

出席番号七番
響子は高校時代の出来事に、今も縛られていた。

感想

辻村さんらしい繊細な心理描写。
「かがみの孤城」などでは、多感な少年少女の葛藤を描いていたが、本作では28歳の大人の心理を描いている。

有名女優になった「キョウコ」を、クラス会に誘おうとする様子を「洞窟に閉じこもったアマテラスを引っ張り出そうとする神話」と重ねる。

「マウント取り合い」の人間関係の中で、キョウコの放つ太陽の光がどのような化学変化を起こすのか。

「あなたより私が幸せ」から「自分の大切にする価値観」へと視点が移る様が、ダイナミックでいい。

登場人物が全員繊細すぎて、鈍感な私には感情移入しにくかったけれど、人の「成長」はやっぱり心を動かす。

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