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LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

LIFESPAN(ライフスパン)―老いなき世界

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要約

老化を「万人がかかる病気」だと捉え、その治療法を研究する著者が、現時点での最新の成果と未来の見通しを語る。

まとめ

「好ましい環境」では細胞の複製を促進し「厳しい環境」では、遺伝のアナログ情報である「エピゲノム」を修復する「サーチュイン遺伝子」に着目。
空腹、寒さ、運動など、体にストレスを与えることが、遺伝情報の修復につながる。

  • 老化の原因

生命の原初から、細胞は環境が好ましいときに複製を作り、厳しい環境のときには、増殖を抑制すると同時にDNAの損傷を修復できるようにしていた。
無制限に増殖する生物はすぐに周囲の資源を使い尽くして滅亡してしまう。このサバイバル回路は生き残りに有利だった。

老化の典型的特徴は
・フリーラジカルによるDNA損傷でゲノムが不安定になる。
・細胞分裂を繰り返すことでテロメアが短くなる。
・遺伝スイッチを調整するエピゲノムが変化する。
・タンパク質の恒常性が失われる。
・代謝の変化で栄養状態が不安定になる。
・ミトコンドリアの機能が衰える。
・老化細胞が蓄積し炎症を起こす。
・幹細胞が使い尽くされる
・細胞間情報伝達が異常をきたし炎症が起こる。

これらが典型的な特徴だが、この上流に「老化の原因」があるのだとする。

老化は「情報の喪失」だといえる。
遺伝子によるデジタル情報ではなく、エピゲノムと呼ばれる「生体のアナログ情報」の喪失が老化の唯一の原因だと著者は考える。

ゲノムのデジタル情報がDNAとして保存されているように、エピゲノムの情報は、DNAとヒストンが結びついた「クロマチン」という構造にしまわれている。エピゲノムは、分裂した細胞に「何になればいいのか」を教える。

アナログ情報は修復可能だ。
サーチュイン遺伝子は、周囲の環境に応じて「脱アセチル化酵素」を生成する。この酵素はDNAのヒストンへの巻きつき強度を調整する。結果的に「好環境下で細胞増殖を抑制し、悪い環境下では遺伝情報を修復する」ことになる。

サーチュイン遺伝子だけでなく、同じよういDNA複製を制御するTOR生成に関わる遺伝子や、代謝コントロールに関わるAMPKをつくる遺伝子も含め「長寿遺伝子」と呼称している。

これらの防御システムは、生体にストレスがかかると始動する。

  • 老化は治療可能な病気である

現代の医療は、個別の症状を対象としているが、老化を死因とは認めない。
だが「老化」は、各症状の上流の原因であり、最大の死因であるといえる。

モグラ叩きのように症状を抑えていっても根本対策にはならない。また老化を止めないと、症状から回復しても健康寿命を伸ばすことはできない。

老化を病気と認めその治療を行うことで、長生きし健康寿命も伸ばすことができる。

  • 老化と戦う取り組み

長寿遺伝子を働かせるための「間違いなく確実な方法」がある。

①食べる量を抑える
 カロリー制限、間欠的な断食など。

②食事の内容
 動物性タンパク質の摂取を控える。 

③運動をする
 HIIT(高強度間欠トレーニング)が特に効果が高い。

④寒さに身をさらす
 体が恒常性を働かせるとサバイバル回路が活性化する。

⑤タバコなど有害な化学物質、放射線を避ける
 DNAの損傷は回復できるが、損傷を抑えることも必要。


現時点で「確実な方法」とはいえないが、老化を抑える効果のある薬も研究されている。

広くいわれている「抗酸化物質」は効果は限定的。

「ラパマイシン」は、細胞分裂を促すTORを阻害し、エネルギーをエピゲノム修復に振り向ける。メトホルミンは代謝反応を抑制し、少ないエネルギーを有効活用するためミトコンドリアのエネルギー効率を上げる。

サーチュインの燃料となるNAD(ニコチンアミドアデニンヌクレオチド)の効果は実証されている。NADを増加させるNR(ニコチンアミドリボシド)、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の摂取に効果が期待される。

NMNは人体内でも生成されているし、アボガド、ブロッコリー、キャベツなどにも含まれている。


「老化を防ぐ」だけでなく「廊下から回復する」方法も研究されている。
iPS細胞の研究から、人体内のエピゲノム情報を初期状態に戻し「細胞のリプログラミング」が行われる可能性もみえてきた。

遺伝情報を取り入れることで、その個人により有効な治療法がわかるだけでなく、予防医療にも役立血、寿命・健康寿命の延長に有効。
ウェアラブル機器を利用したバイオトラッキングも、適切な病気の治療や、病気の予防に役立つ。

  • 長寿達成した未来

人間の最長寿命(120年程度)に、当面大幅な伸びを期待することはできないが、平均寿命が最長寿命に近づいていくことは間違いない。
また健康寿命の長期化で、老齢でも精力的に活動する人々が増えていく。

人口増加が地球環境に与える影響を懸念する声もある。地球が抱え切れる人口は100億人程度という分析があり、今後100年以内に人類は自滅するという見通しもある。
政治や経済などで「100年辞めない人間」が牛耳るような危険も起こりうる。
老齢人口の増加が社会保障費の負担を重くすることも懸念されている。

とはいえ、人口の増加ペースは確実に低下していて、100億人を少し超えたあたりで安定しそうだという見通しが強い。
また消費行動を変えていくことで、一人の人間が与える環境負荷は減らしていくことも可能だ。
老齢で引退するのではなく、健康寿命の延長で医療負担を抑えながら、さまざまなステージで世界に関わっていくことができれば、社会保障費の負担も抑えることができる。

感想

「老化は治療可能な病気」なのだという見方は面白いし、勇気をくれる。

健康寿命が延び、さらに最長寿命も延びていけば、それぞれの人生も社会も大きく変わっていくだろう。

「空腹になるとサーチュイン遺伝子が若返りを促進させる」という話は、よく聞くが、その機序を説明されるとプラシボ効果も抜群だ。

まずは
・満腹になるまで食べない。
・動物性タンパク質は控えめに。
・運動を取り入れる。
・タバコなどの化学物質を取り入れない。
を取り入れて老化を遅らせて、リプログラミングで「最長寿命」が延びる日を待とう。

世界がどう変わっていくのか見届けたい。
できれば健康に1000億年くらい生きたいものだ。

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