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教室が、ひとりになるまで

教室が、ひとりになるまで

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あらすじ

北楓高校2年生のA組、B組から自殺者が連続した。

B組の中心的人物だだった小早川燈花は、A B組合同のレクリーションを企画したり、雰囲気を盛り上げていた。
だがある日、燈花は女子トイレで首を吊り死んでいた。彼女は「私は教室で大声を出し過ぎました。調律される必要があります」という遺書を残していた。

次にA組の村嶋竜也が校舎から飛び降りて死んだ。
竜也は、鍵をかけた視聴覚室に閉じこもり、友人が小窓から見ているところで遺書を書き、友人が鍵を取りに行っている間に窓から飛び降りた。
達也の遺書も「私は教室で大声を出し過ぎました。調律される必要があります」と、燈花と全く同じ文面だった。

3人目もA組の高井健友だった。
学校の用務員が見ているまで、自らベランダから飛び降り死んだ。
彼もまた「私は教室で大声を出し過ぎました。調律される必要があります」という遺書を残していた。

A組の垣内友弘は、隣に住むクラスメートの白瀬美月を訪ねる。彼女はここ数日登校していなかった。
美月は、燈花と竜也が自殺した後に行われたレクリエーション企画の仮装大会で、死神に扮した女性から「小早川と村嶋を殺したのは私だ、次は健友を殺す」と打ち明けられ、その次は「美月か山霧こずえのどちらかを殺す」と脅された。
美月は死神に怯え投稿を避けていた。こずえにも「学校に行くな」と伝えたが受け入れられなかったため、美月は垣内にこずえを説得して欲しいと頼んだ。

だが垣内は美月の話を本気で受け止めはしなかった。

彼の家に奇妙な手紙が届く。手紙の主は「垣内に嘘を見破る能力」を譲ったと伝えていた。

北楓高校には代々4つの特殊能力が受け継がれてきたのだという。
・能力は卒業時に在校生に受け継がれる。
・能力と発動条件はそれぞれ異なる。
・能力の内容と発動条件を見破られると能力は消滅する。
・能力は学校の敷地内でしか発動しない。
・受取人が死亡した場合、先代の能力者が新たな受取人を指定する。
・能力が失効した場合、新一年生の中からランダムに選ばれる。

垣内は当初信じなかったが、学校で友人の嘘が聞き分けられることに気付き驚愕する。

特殊能力の存在を知った垣内は、美月の言葉を思い出し、連続自殺が能力の受取人による他殺である可能性に思い至る。

垣内が能力について調べるため、学校の図書室で北楓高校設立者の自伝を読んでいると、同じクラスの八重樫卓が現れた。
八重樫も能力の受取人で、創立者自伝を読んでいる垣内を「連続自殺を引き起こした犯人」だと疑い詰め寄ってきた。

垣内は、能力の引き継ぎを知らせる手紙が3件の自殺の後に届いていることを示し、疑いを解く。

八重樫も「他人の好意や嫌悪を知ることができる」能力を引き継いだ受取人だった。八重樫は3人を死に追いやった能力者を「許さない」といい、垣内と一緒に犯人探しに取り組む。

垣内と八重樫は、3人を死に追い込んだ犯人に辿り着いた。
だが状況はどう見ても自殺で「特殊能力を使った殺人」であることを証明することはできない。
二人は、犯人が使った能力とその発動条件を探り出し、その能力の無効化を狙う。

垣内たちと犯人の直接対決が始まった。

感想

「教室、ひとりになるまで」じゃなく「教室、ひとりになるまで」だ。

主人公たちへの感情移入が深すぎて、作品世界に入り込んでしまった。
読み終わったときにはぐったり脱力。。

登場人物の一人は「異常な性癖だとか、偏った思想だとか、不幸な境遇で育ったとか、そういう犯人が、無茶な理由で人を殺す。それを利害関係のない名探偵とやらがやってきてこじつけの推理と薄っぺらい説教とで片っ端から叩いてく。何が面白いのかわからない」と言う。

まあ、ミステリは大体そういうもので、殺人の理由に感情移入できないから、客観的に「フィクションとしての論理パズル」を楽しめる。コナンみたいに。

だが本作の犯人には共感を抑えられなかった。
「君のため、みんなのため」と言って心に踏み込んでくる人たちへの憎悪を訴える犯人の気持ちがわかりすぎる。


学校という舞台設定だと、スクールカーストはテーマになりがちだ。いじめられる苦しみだとか、カースト内の地位を維持するための疲弊だとか、という視点で語られることが多い。

この作品でもスクールカーストがテーマの一つとなっている。
『人間府病棟期限論』を持ち出し、社会制度は必然的に不平等を生み、絶対権力者を頂点としたピラミッドが出来上がるのだと述べた。

だが、この話の中では、カースト内での権力闘争は焦点はあたらない。
「ピラミッド構造から抜け出したい」と願う人も、決して離そうとしない醜悪さがハイライトされる。

「誘わないと仲間外れにしているみたいで悪いから」乗り気じゃない人を巻き込む人は、決して悪意を持っているわけではない。
だからこそ、その影響からは逃れがたい。放っておいてくれと言いたいし、言っても放っておいてくれない。
だからその息苦しさから逃げるには、極端な行動を取るしかない。

気持ちがわかりすぎて、感情移入しすぎて、読み終わってヘトヘトになってしまう。こんな読書は久しぶりだった。



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