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六人の嘘つきな大学生

すごい嘘つき、でもカッコいい嘘つき『六人の嘘つきな大学生』

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すごい嘘つき、でもカッコいい嘘つき

ややネタバレを含んでしまうので、未読の方はご注意ください。

ミステリの最大の魅力は「騙された感」の爽快さだと思ってます。

特に好きなのは「叙述トリック」で、犯人が警察や探偵を騙すのではなく、作者が直接読者を騙しにくるのが気持ちいい。ただ叙述トリック系は、文章に高度なテクニックが必要な分、物語自体は単純なものが多い気がしています。

でも本作は「叙述トリックの使い方」が圧巻。

「一人の人にも多様な面がある」というのは、まあ当然のことです。でもそれをミスリードを誘うトリッキーな切り取り方で見せられると強烈に焼き付きます。

「その人はどういう人か」なんて本人にだって分からないものです。でも雑多な人付き合いの中で、相手の複雑さを全て受け入れるだけのコストはかけられないから、レッテルを貼って簡易的に処理している。

本書の叙述トリックは、そういうレッテルを鮮やかに剥がしていきます。

単に相手を騙し驚かせるだけではなく「人は多様性を持つ」というメッセージを補強するために叙述トリックを使っている。さすがは名手、余裕がありますね。

ラストが特に印象的です。

嶌が「人の嘘は見破れる」と言い切る就活生に×をつけながら、その後あっさり騙される様子を見て○に変えています。

「自分の能力の過大評価」は鼻持ちならないから×をつけた。でも「大企業の言うこと、人事の言うことは正しい」というシンプルなレッテル貼りが原因ならば「レッテルの嘘にはやがて必ず気付くし、その分伸び代がある」という判断で○に変えた、ということだったのだと思います。


就職活動自体が嘘まみれで、波多野が言った通り「透明な銃で透明な敵を撃つ」ような手応えのなさがあります。実際には就職した後でも見えない敵が相手で、なぜ勝ったのか負けたのかも分からない日々が続きます。

でも「他人も自分も他面的で重層的な存在」だと気付くことで、相手のどこを狙えばいいのかがわかってきます。「敵は見えにくいけど透明じゃない」と思えるようになるものです。

いい嘘つきの話でした。

あらすじ

急成長するIT企業のスピラリンクスで新卒採用活動が行われていた。

5,000人を超える志願者から6人が最終選考に残る。6人は数ヶ月かけて最後のグループディスカッションの準備をするよう命じられた。会社は「これは人数を絞る選抜ではなく、それぞれの適性を見るためのもの。全員が優秀なら全員を採用する」のだという。

6人は協力してディスカッションの準備を進め、お互いの信頼関係を深めていった。

だが最終選考の直前になって、会社は「事情により採用を1名に絞ることになった。ディスカッションで採用する1名を決めてほしい」と方針変更を告げる。

最終選考となるグループディスカッションは、閉ざされた部屋で録画された状態で進行した。30分ごとに合計6回の投票を行い、最も多くの票を集めた人を推薦しようということになる。

途中、部屋の中に封筒が置かれていることに気づいた。6通の封筒には6人それぞれの「クズエピソード」が入れられていた。どの封筒をどのタイミングで開けるのか、熾烈な心理戦が繰り広げられる。

最後には「封筒を置いた犯人」とされた人物が罪を認めて退場した。残った5人のうち最多票を集めた一人がスピラリンクスに入社することとなる。


それから8年後の現在、スピラリンクスに入社した一人は、最終面接で「犯人」とされた人物が病死したことを知った。

その人物が残したメッセージをみて「真犯人は別にいた」のではと思い至り、改めて当時の関係者から話を聞く。

真犯人は誰か、その目的は何だったのか。

「カッコいい嘘」が二転三転する物語を紡ぎます。

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