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九度目の十八歳を迎えた君と

青春を拗らせちゃったあなたへ『九度目の十八歳を迎えた君と』ネタバレあり感想

こちらで購入可能

「青春時代と大人時代には、超えられない壁がある」

年齢に抗うのではなく、昨日の自分と今日の自分が分断していることを受け入れれば、生きていくのが楽になる。

そんなお話。


伏線仕込みの名手、浅倉秋成さんの作品だけあって、挿入されるエピソードに一つも無駄がなく「青春の罠」を炙り出している作品だった。

青春に捉われちゃってる人に、ぜひ読んでもらいたい。

Kindle版


話は語り手の間瀬が大人になった時間軸と、彼の高校時代の回想が並行して進む。その中で、青春時代の最中にいる人と、現実と折り合いを付け生きる大人の、どうしようもない断絶が描かれている。

高校時代の間瀬は良い感じに鬱屈していた。同級生二和への想いは募るが、直接的なアプローチを取る勇気はない。そこでなぜか「プラモデルを作る」ことで二和に想いが伝わると信じ熱中する。でも作ったプラモデルを見せるわけでもなく、いつか相手が自然に気付いてくれる日を待っている。

実に痛々しくて感情移入しまくりだ。

彼の問題は、彼自身にしか解決できなかったのだろう。そこに大人が介入しても物事は動かない。ただよかったのは教頭の存在だ。何一つ助言をするわけでもなく、ただ間瀬に寄り添ってプラモデルの話をしていた教頭は、距離感を理解した正しい接し方をしていたようにみえる。

逆に高校時代の間瀬も、大人の側にいる人たち救うことはできなかった。社会に出て、現実と折り合いをつけることに苦しんでいる先輩が彼の元を訪れても、間瀬には何もできなかった。

また高校生の二和は、自分にとっては大切なひとである大人に「夢をあきらめて欲しくない」と思っていても、その想いを大人である相手に届けることはできなかった。



一方で、大人になった間瀬は、青春に捉われた同世代の大人たちを救う。

ミュージシャンを目指していた女子は、若さが武器にならなくなったときに、圧倒的な才能の存在を認識し、かつてはバカにしていたオレンジレンジを聴きながら、CD屋の店員になっていた。
抜群の絵の才能を持っていた男子は、絵では食べられないことを実感し、市役所職員として働き、野球観戦で夢を追う人たちを眺めていた。

同じ青春を共有していた間瀬が相手だから、彼らが青春への思いを吐き出すことができた。そして地に足をつけ今日を生きている姿を共有することで「青春の呪縛」を解く助けとなっていった。

一方で、大人になった間瀬は、現役高校生である夏河を助けることはできなかった。

二和の謎を解くため二人は協力した。でも結局、夏河の問題は夏河自身が、間瀬の問題は間瀬自身が解決するしかなかったのだ。

挿入されていた昭和歌謡のエピソードからも、そんな作者の思いがみえる。

間瀬は、先輩社員に話を合わせようと中森明菜とか知っていることを主張したが、先輩社員の反応は悪い。彼は中森明菜の素晴らしさを共有したかったわけではなく、その時代でなければ味わえなかった空気感を懐かしみ、「今」との断絶を確認したかったのだ。自分の青春は美しかったけれど、今ではガラスケースに入れて遠くから眺めるものになっている。そう実感することで今を生きることに安心感を持てるのだ。

最後に間瀬は、大人になれずにいる二和を救う。正確にいうと、大人の側の問題を整理することで、二和自身が自分の問題を解決する環境を整えた。

青春を否定するわけではないけれど、断絶していることを自覚する。
その上で、現実と折り合いをつける生き方に自信を持つ。

大人として生きるのも悪くないね。

あらすじ

印刷会社で働く間瀬は、駅のホームで高校時代に恋心を寄せていた二和美咲を見かける。高校卒業から9年経っているのに、二和は当時と全く変わらぬ高校3年生の姿をしていた。

間瀬は高校に訪れ二和と話をする。彼女は間瀬のことを覚えていて、自分の年齢が止まっていることも自覚していた。
二和の現在の同級生の夏河理奈は「二和と一緒に卒業したい」といい、最初の同級生である間瀬に「二和が18歳を繰り返している理由を調べ開放して欲しい」と頼んだ。

間瀬は高校時代の友人たちに話を聞いて回る。かつてロックスターだった女子はCD屋の店員になり、抜群の絵の才能を誇っていた男子は市役所で働いていた。だが彼らは二和の年齢が止まっている理由に思い当たることはないようだった。

不思議なのは、現在の同級生 夏河も最初の同級生たちも、間瀬以外の関係者は「二和が歳を撮っていない」こと自体は不思議に思っていないことだった。もっと正確にいうと、現在の二和を直接見るまでは「年齢が止まるなんてあり得ない」と思っていても、彼女をみると「そんなこともあるだろう」と受け入れてしまうということだ。

なぜ二和は歳を取らないのか。
なぜ二和をみると歳が止まることに違和感を感じなくなるのか。
なぜ間瀬だけは例外なのか。

間瀬は「青春の空回り」が痛々しくて、目を背けていた高校時代の記憶に、もう一度立ち向かった。

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