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「神田川」見立て殺人 間暮警部の事件簿

「神田川」見立て殺人 間暮警部の事件簿

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あらすじ

「ぼく」小林次晴は、恋人の中瀬ひかると一緒に、大川探偵事務所で働いていいた。二人が捜査する事件に、間暮警部と谷田貝美琴刑事が首をつっこみ、昭和歌謡に見立てた珍妙な推理を、まぐれで的中させていく。

  • 「神田川」見立て殺人

レストランのウェイトレス 永里杏奈が殺された。
アパートの自室で、全裸で腹部を滅多刺しにされていた。内臓が引き出され、その上に数匹の蛾が蠢いていた。

調査依頼を受けた大川探偵事務所の小林次晴と中瀬ひかるが聞き込みをしていると、間暮警部と谷田貝刑事が闖入する。

間暮はこの事件が『神田川』(かぐや姫 1973年)に見立てた殺人だと看破した。

間暮は言う。
「おかしいと思いませんか?男と女が銭湯に行って、女性の方が待たされるなんて普通はありえない」と。

  • 「手紙」見立て殺人

「犯人は奥さんです」
殺された画家のモデルをしていた18歳少女はいう。

警察は強盗殺人だと判断していたが、少女は「私が彼に送ったラブレターを見られ、嫉妬に駆られた奥さんが夫を殺した」のだという。

闖入してきた間暮警部と谷田貝美琴は『手紙』(由紀さおり1970年)を歌い、事件はこの曲に見立てられていると看破した。

間暮は言う。
「おかしいと思いませんか?男女二人が一つの絵を一緒に描くことなどありえない」と。

  • 「別れても好きな人」見立て殺人

アパレルショップの社長が、娘婿が殺された事件の調査を依頼してきた。
被害者のかつての恋人が愛憎の果てに殺害に及んだのだという。

だが彼女には犯行当日のアリバイがあった。
雨の中何軒ものバーをハシゴしていたことが確認されている。

闖入してきた間暮警部と谷田貝美琴は、事件がロス・インディオス&シルビア『別れても好きな人』(ロス・インディオス&シルビア 1979年)に見立てられた殺人であることを看破する。

間暮は言う。
「おかしいとは思わなかったのですか?渋谷、原宿、赤坂、高輪、東京タワー、乃木坂、一ツ木通り、雨の中これだけ歩き続けるのは大変です」と。

  • 「四つのお願い」見立て殺人

依頼人は「父を轢き殺したのは母だ」といい、調査を依頼してきた。

だが母にはアリバイがあった。
犯行当日、体調を崩した彼女が終日ベットにいたことを、家政婦が確認していた。

闖入してきた間暮警部と谷田貝美琴は、事件が『四つのお願い』(ちあきなおみ 1970年)に見立てた殺人であると看破した。

間暮は言う。
「この歌にはたいへんな矛盾点がある。四つのお願いというタイトルだが、1番から3番まで各4個、合計12個のお願いがあったのです」と。

  • 「空に太陽があるかぎり」見立て殺人事件

依頼人である父が「娘を殺した犯人を捕まえて欲しい」という。
彼は「かつての交際相手が、逆玉結婚のため邪魔になったため、娘を殺した」のだと考えていた。

だがその男には、被害者がレンタルビデオを借りていた時間から特定された犯行時刻にはアリバイがあった。

間暮警部と谷田貝美琴は、被害者が借りていたビデオ『ショーシャンクの空に』『太陽がいっぱい』『命ある限り』をみて、この事件が『空に太陽があるかぎり』(にしきのあきら 1971年)を見立てた殺人であると看破する。

間暮は言う。
「おかしいと思いました。二人で一人とはいったいどう言う意味だろうと。物理的にはありえない現象です」と。

  • 「勝手にしやがれ」見立て殺人事件

「密室で死んでいた恋人は自殺ではなく殺されたのだ」と主張する女性が調査を依頼してきた。

依頼人が犯人だと目していた「恋人の手帳に名前の書かれていた女性」は、大企業幹部の夫人で、被害者とは面識がなく、反抗の動機は皆無だった。

そこに間暮警部と谷田貝美琴が乱入し、この事件は『勝手にしやがれ』(沢田研二 1977年)の見立てであると断ずる。

間暮は言う。
「おかしいと思わなかったのですか。あの歌の中で女性は男性の部屋から出て行ってしまう。鍵はどうしたのでしょう。まさか夜中に寝た人をおいて、鍵を開けっぱなしにして出ていったりはしないでしょう」と。

  • 「ざんげの値打ちもない」見立て殺人

ボランティア組織のリーダである神父が殺され、現場にナイフをもってたちすくんでいた女性が容疑者として逮捕された。
容疑者の恋人である男性が、彼女の無実を証明して欲しいと調査を依頼してきた。

組織調査に乱入してきた間暮警部と谷田貝美琴は、この事件が『ざんげの値打ちもない』(北原ミレイ 1970年)の見立て殺人であると看破した。

間暮は言う。
「おかしいと思わなかったのですか。14、15というのは年齢ではなく人数のことだった。2月に14歳になった人物がどうして5月に15歳になるのです?」と。

  • 「UFO」見立て殺人

大川探偵事務所の社員旅行で乗っていた飛行機で、乗客が忽然と消える事件が発生した。
夫人が気がつくと、毛布をかぶって寝ていたはずの夫がもぬけの殻になっていたのだという。機内を探しても彼の姿はどこにも見つからなかった。

同じ飛行機に偶然乗り合わせていた間暮と谷田貝美琴は、この事件は『UFO』(ピンク・レディー 1978年)に見立てられたものだと断じた。

間暮は言う。
「どこかおかしいと思いませんでしたか?飲みたくなったらお酒を差し出すのはわかるけれど、眠たくなったら普通ベッドを差し出しますか?自宅だったら寝室に案内する、外出先だったらホテルに部屋をとったりするはずです」と。

  • 「さよならをするために」見立て殺人

有名俳優が失踪した離婚協議中の妻を探して欲しいと依頼してきた。

調査の結果、彼女と最後に接触したのは百科事典のセールスマンだったことが判明したが、彼女が失踪したと思われる時間には彼が他の場所にいたことが確認されていた。

闖入してきた間暮と谷田貝美琴は、この事件が『さよならをするために』(ビリー・バンバン 1972年)の見立て殺人であると看破した。

小林は聞いた。
「やっぱりあの歌詞の中におかしなところがあったのですか?」と。
間暮は言う。
「ゆうべ枯れてた花が今は咲いているよ。いったん枯れた花がまた咲くなんて不自然でしょう?」と。

感想

この雰囲気が抜群に好きだ。
コントのような現実感のない乾いた雰囲気がクセになる。
現実とガラス一枚隔てたような感覚が、人生のリアルとシンクロする。

この作者の『ミステリアス学園』とかを読むと、登場人物自身が、メタ視点で「自分が演劇のための駒」であることを認識している。
本作品では登場人物が直接的にメタ的な発言をするわけではないが、リアリティを排除しキャラクタを突き放してみる感覚がある。

鯨統一郎さんは、
シェイクスピアと同じように「この世は舞台。人はみな役者」と感じているのだろうと想像している。

一方で、登場人物を駒にしてメタ的描写を織り交ぜながら、同時に登場人物に深く入り込みズブズブの私小説にしちゃってる『シン・エヴァンゲリオン』とかも面白い。

でもやっぱり、自分にとっては、鯨作品くらいの突き放した見方の方が、現実に感じている「自分の内側と外界の隔離感」とシンクロして心地よい。

いやあ、面白かった。
昭和歌謡は古すぎてわからなかったが。。

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