BookLetでは、ビジネス書や小説の1000文字程度のオリジナルレビューを掲載しています。

ミステリ学園

冒頭の一行で、内外名作ミステリすべての真相を明かしています。未読のミステリを残している人は二行目からお読みください。『ミステリ学園』ネタバレレビュー

こちらで購入可能

やたらと情報量の多い作品だ。

冒頭から「すべてのミステリの真相をあかす」と大見えを切る。「なんだ肩透かし」と思わせつつ実はラストへのフリになってる。


主人公の湾田乱人(わんだらんど)は、ミステリといえば松本清張の『砂の器』しか読んだことはなかった。だが「小説を数字で表現する」ことを目指し、そのためにミステリが適していると考えミステリ研究会に入る。最終的には E=MC2 を表現した小説を書きたいのだという。


ミステリ解説にも熱が入っている。
「本格ミステリとは何か」という討議から始まり、
 ・トリック
 ・クローズドサークル
 ・密室
 ・アリバイ
 ・ダイイングメッセージ
 ・意外な犯人
といったミステリの鍵となる部分をパターン分けして解説している。
またポーの『モルグ街の殺人』から始まり、古今東西のミステリをタイプ別、年代別に紹介している。ちゃんとネタバレは避けられていて「叙述トリックの傑作」みたいな極悪なのはない。

閉じ込められた別荘での「たいへん、冷蔵庫に大量の缶ビールしかない!」という「冗談」など、相当ミステリを読み込んでないと、面白さが伝わらない小ネタも仕込まれている。
実は「ミステリ入門者への解説」というより、「ミステリマニアむけの内輪ウケ」狙いなのかもしれない。

さらにすごいのが、全体の構成が重層的な入れ子構造のメタミステリになっているところだ。
単純な「作中作」を打ち込んだのではなく、ミステリ開設の一環として、「探偵 対 犯人」と「読者 対 作者」の視点の交錯が面白さを生み出す「叙述ミステリ」の解説のため、冒頭から仕込みを入れていたことがわかる。

『ソフィの世界』が哲学の世界で同じようなことをやっていた。認識論の変遷を解説するために、作中登場人物の自己認識が変化していく。
本作はミステリでこれをやったような感じだ。

鯨統一郎さんの作品登場人物は、メタ的な視点が強くて、リアルな存在感にかける。それが魅力なのだけれど、話によっては上滑りを感じる人もいるだろう。
本作のように「メタ視点に振り切った」話の方が、むしろ万人受けするのかもしれない。

あらすじ

  • 本格ミステリの定義
    湾田乱人はミステリ学園のミステリ研究会に入部した。
    ミステリはほとんど読んでいないが、いつか小説を数式で表現したいと考えている。
    ミステリ研究会では「本格推理擁護派」と「反本格推理派」が対立していた。
    本格推理擁護派の平井先輩が死んだ。
  • トリック
    機械的トリックから心理的トリックへの変遷、叙述トリックからプロバビリティの犯罪など、ミステリに描かれるトリックの類型を解説する。
    研究会の中で二股をかけていた西村先輩が死んだ。
  • 嵐の山荘
    ミステリ研究会の一同は「嵐の山荘」に向かう。唯一外界に通じる吊り橋は落ち、電話も圏外で繋がらない。
    星島先輩は自殺に偽装され死んでいた。
  • 密室講義
    小倉部長の部屋で長生先輩が死んでいた。
    鍵はかかっていなかったが、建物前にいた交通調査員の証言で、現場は実質的に密室だった。
  • アリバイ講義
    湾田と付き合っていた薔薇小路亜矢花が死んだ。
    容疑者である部長は「郵送で届いた亜矢花の作品を読む時間」を考えると、犯行は不可能だった。
  • ダイイング・メッセージ講義
    最後に湾田と小倉部長の二人が残った。
    小倉はLというダイイングメッセージを残し死んでいった。
    登場人物は二人だけ、でも湾田は自分が犯人ではないことを知っている。
  • 意外な犯人
    本書に仕掛けられた罠。
    「意外な犯人」とは誰なのか。

こちらで購入可能

コメント