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クララとお日さま

愛情の物語として読みました『クララとお日さま』

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これは「愛情の物語」だ。

未回収の伏線も多く、受け手の多様な解釈を許すエヴァ的な作品。AIの視点から見た世界像は興味深いし、AIたちの「お日さま」崇拝には不気味さも感じる。SF的に読み込んでも面白いのだと思う。「向上処置」が暗示する苛烈な能力主義社会との戦いもテーマなのだろう。

ただ私がこの話を読んで浮かび上がって見えたのは「AIの視点からみた人間の愛情」だった。

注:この先、いくつかネタバレするので、未読の方はご注意ください。
間違いなく傑作なので、ぜひご一読を。

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本作は AF(Artificial Firiend;人工の友だち?)であるクララの視点で描かれる。

クララはジョジーという少女の家に買われ、ジョジーや彼女の家族、友人のリックたちと親しい関係を築いていく。

ジョジーの母親は病弱な娘の死をを恐れていた。クララにジョジーの心を学ばせ、ジョジーが死んでも「彼女を継続」させることを密かに計画していた。

ジョジーのコピーを作ることに協力していたカバルディさんは「継続できないような特別なものは、ジョジーの中にはない」といい、クララが学習すればジョジーの心を完璧に再現できると断言した。クララもジョジーの心を完全にコピーすることができるとは考えていた。

だがそれでも、「カバルディさんは探す場所を間違ったのだと思います」とクララはいう。「特別な何かはあります。ただそれはジョジーの中ではなく、母親に、リックに、メランダさんに父親、ジョジーを愛する人たちの中にありました」と。

人の心は単なる機能や反応ではない。
人間を機械的に分析すれば、心を完璧に模倣することはできるのかも知れない。
それでも、母親やリックが愛しているのは、ジョジーの反応ではなく、ジョジーという唯一無二の存在の全体であって、彼女と同じ反応をする「心のシミュレータ」ではない。

逆からいうと「人の心はその人の中だけで完結するものではなく、人とのつながりでできている」ともいえる。唯一無二の存在を認め合うネットワークを含めて、一人の人間として存在できるのだ。

クララが「リックのジョジーへの愛情が本物かどうか」を尋ねたエピソードでも同じだ。リックは「僕らはお互いの一部で、僕らの愛は本物で永遠だ」といった。だが数年後、二人は別の道を歩むことになる。

それでもクララは「リックがそのとき伝えた愛情は本物だった」のだと判断した。
それは人の愛情が、お互いの全体性を含めた唯一無二のもので、昨日の思いを明日にコピーすることはできないものだと理解していたからだろう。

そしてそういう心の機微、愛情の姿を見出したのが、人間ではなくAI だったというのが、この話の尖った部分なのだと思う。

薄寒さを感じさせる設定なのに、なんだかホッとして暖かくなる。傑作だ。

あらすじ

AFのクララは、仲間たちと一緒に店に展示されていた。
彼らは太陽をエネルギー源とし「お日さま」に深い感謝と崇拝の念を持っている。

クララがショーウインドウに展示されていたとき、ジョジーという少女に気に入られ、数日後に彼女の家に迎えられた。

ジョジーは「向上処置」の副作用で病弱になっていた。彼女は隣家に住む「向上処置」を受けていないリックと「大切な計画」を企ていてた。クララはジョジーとリックの関係をそっと見守ってく。

だがジョジーの体調は悪化の一途を辿る。

かつてジョジーの姉も「向上処置」の失敗で命を落としていて、これ以上の喪失に耐えられない母親は、ジョジーの心をクララに学習させコピーしようとしているのだった。

だがクララは、かつて店のショーウインドウでみた「お日さまの特別な助け」によってジョジーを救うことができると考える。街に出たとき「煙を吐き出しお日さまの光を遮る邪悪な機械」を壊すことで、お日さまに祈りを届けようとした。

本作は Audibleのオーディオブックでも聴けます!

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