谷根千ミステリ散歩 中途半端な逆さま問題
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東川さんの作品だけあって登場人物たちの「軽妙なやりとり」は抜群の面白さです
。
今回はAudibleのオーディオブックで聞いたのだけれど、会話に力のある作品はAudible向きだなとも思いました。ナレータさんの力量もすごいですね。
こういう割と新しい作品もAudible聴き放題対象になっているのが嬉しい。
会話の軽妙さだけでなく、ミステリとしても独特の魅力があります。
とくに面白いのは、この探偵が「結構犯人を間違える」ことです。ロジックをこねくり回すタイプの王道の推理小説なのですが、探偵役がある程度までは犯人役を絞りながら最後で間違えます。
探偵のドジっ子ぶりを演出する意図もあるのでしょうが「ここまでに提示した材料だと、ここまでしか絞れないよね」という確認にもなっていて、読者に推理のプロセスを意識させるような作りです。
「推理小説なんて雰囲気で読んでるだけで考えてないんだろ」と読者を突き放すのもまあ正論なのでしょうけれど、間違いポイントを強調することで論理パズルの面白さを再確認させる「懇切丁寧な作り」はやっぱり良いと思います。
短編各話のタイトルが上手い感じにキーポイントを拾っているのも秀逸ですね。
軽妙な会話の魅力と相まって、幅広く多くの人に「ミステリの面白さを伝えられる作品」になっているのだと思います。
あらすじ
イワシ料理専門居酒屋「吾郎」の看板娘を自認する女子大生 岩篠つみれと、怪しげな開運グッズ屋「怪運堂」の店主竹田津優介が、谷根千エリアを歩き回りながら事件を解決していく4つの連作短編集。
第1話 足を踏まれた男
つみれの友人が「吾郎」を訪れ、昼からやさぐれた酒を飲んでいた。
聞けば彼女は「憧れていた大学の先輩に嫌われたかも」と嘆いていた。
「先輩は私に足を踏まれたように振る舞ったが、近くにあった石を踏んだだけで足は踏んでない、先輩は私に意地悪をしている」のだという。
つみれは兄の紹介で怪しげな開運グッズ屋の店主の竹田津を訪れ、友人に起きた事件の話をした。
竹田津は、彼女の話を近所の石材店で起きた「何も盗まれない泥棒侵入事件」の関連に気づき、事件を解決に導く。
彼女が踏んだものは何だったのか?
第2話 中途半端な逆さま問題
女性が旅行から帰ると、写真立てや本など家中のものが逆さまにされていた。
大切な金庫もひっくり返されていたので慌てて確認したが中身は無事だった。
事件の話を聞いたつみれは竹田津と一緒に謎の解決に挑む。
竹田津は「部屋中の大半のものがひっくり返されていたのに、ちゃぶ台がひっくり返されていない。この中途半端さが事件の鍵だ」という。
第3話 風呂場で死んだ男
つみれは吾郎で飲んでいた男の自宅に忘れ物を届けに行く。
だがその夜は呼び鈴を鳴らしても男の返事はなかった。
翌朝に改めて訪れても返事はなく、不審に思ったつみれがパトロール中の警官と一緒に家に入ると、男は風呂場で死んでいた。
男の姿は奇妙なものだった。
風呂から足を突き出している。どこか別の場所で殺され、死後硬直が始まってから死体が動かされものだと考えられた。
第4話 夏のコソ泥にご用心
つみれが友人のアパートを訪れると、彼女は「部屋に入った泥棒が窓から逃げた!」と慌て出てきた。
泥棒は押し入れに潜んでいて、つみれたちが部屋を訪れた時に、2階の窓から飛び降りて逃げ出したのだという。
偶然通りかかった男子大学生が現場近くで慌てて走っていた男を写真に収めていたが、その男には「分刻みのアリバイ」があった。