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馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow

馬鹿と嘘の弓 Fool Lie Bow

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どんな主張があってもいい。でも暴力での解決は決して認められない。

「人から干渉されないで自由に生きたい」

主人公柚原典之の生き方にがっつり感情移入です。

とくに前半、第三者の視点で描かれる柚原は自分と近いものを感じました。

でも後半で柚原自身の視点で語られるパートに入り、彼の「歪さ」が見えてきます。

その展開で、なんだか自分の「歪さ」を見せられたようで、気味が悪さが残りました。

柚原は冒頭から警察官と衝突します。発言は論理的で態度も丁寧。彼は「正しい」。でも同時にものすごく「危うい」。


彼の論理が正しくても、世の中は理屈で動いてはいません。一見すると理屈で動いているようでもも、実は人と人との「関係」が支配しているものです。

柚原は世の理不尽さに憤り、それでもそのルールの中で自分の居場所を確保しようとします。他者との関わりを嫌う彼は、それを自分一人でやり遂げようとする。


小川と可部谷が言うように、大多数の人は世の理不尽さを感じていても、政治や経済を「動かしている人々」に任せているものです。

これはある意味で「諦め」なのかもしれません。でも、漠然とでも「他者に対する信頼」があるから役割分担が成り立っているといえるでしょう。


私も人との関わりは面倒臭いと感じるし、できるだけ一人で世界を完結させたいと思っているところがあります。

それでも、社会の中で自分の責任を果たそうとする人の真摯な姿を見たり、自分を親身に助けてくれる人に触れ合ったりすることで、心の底では「人間を信頼している」ところがあります。

柚原は少しだけ「間に合わなかった」ということなのでしょうか。

悲しい話でした。

あらすじ

ホームレス生活をしている柚原典之が神社の倉庫で豪雨を凌いでいると、警察官に強引に追い出されてしまう。彼は雨の中を彷徨っていた。

柚原を調査していた探偵事務所の可部谷恵美は、彼に直接声をかけ話を聞く。

彼は理知的で穏やかな性格だった。同じくホームレス風の男性から受け取った社会学の本を読み、社会に対する不満を語った。

翌日、可部谷に代わって柚原を尾行していた探偵事務所長の小川令子は、倒れている男を見つけ救急車を呼ぶ。男は病院で亡くなった。

亡くなった男は飯山健一という元大学教授だった。彼は家も十分な資産もあったのにホームレス暮らしをしていた。

柚原に本を渡したのは飯山で、その本は飯山自身が解説を書いているものだった。

また飯山は柚原の顔写真を持ち、ホームレス仲間に柚原の消息を聞いて回っていたことが判明する。

その写真は、小川の事務所が依頼者から受け取った柚原の写真と同一のものだった。

飯山は、十分な資産を持ちながら何故ホームレス生活をしていたのか。
探偵事務所への依頼者と飯山は何故同じ写真を持っていたのか。

謎を解きながら、柚原の思いに迫っていく。

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