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やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

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でもね、傷つけないなんてできないんだ

人間、存在するだけで無自覚に誰かを傷つけるものさ
関われば傷付けるし、関わらないようにしてもそのことが誰かを傷つけるかもしれない

けれど、どうでもいい相手なら傷つけたことすら気付かない
大切に思うからこそ、傷つけてしまったと感じるんだ

誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ

俺ガイル、14.5巻まで一気に読みました。
いやー、すごい傑作じゃないですか、これ。

4巻くらいまでの序盤、春から初夏の時期は、キャラクタ同士の軽快なかけあいが楽しい典型的なラノベ展開。

5巻〜8巻くらいまでの中盤、盛夏から秋にかけては「ぼっちの戦い方」がカッコよくて、でもだんだん苦しくなる。

9巻〜14巻の終盤、冬から春にかけては、暗く落ち込んでいく日常とその再生が描かれています。

ちょうど季節の巡りに合わせたように一巡して、去年と同じような、でも全てが少しずつ確実に変わっている、そんな青春ラブコメです。

序盤は、雪ノ下、比企谷、由比ヶ浜の テンプレ通りのラブコメ

ぼっちを極めるひねくれ高2男子の比企谷八幡、才色兼備だけれど対人関係ド下手な雪ノ下雪乃、コミュ強だけど空気を読み過ぎる由比ヶ浜結衣の3人が織りなす青春ラブコメです。

序盤は主役3人が「奉仕部」として生徒たちの悩みを解決していく展開。

3人以外のメインキャラも大部分は1巻で登場して、強烈なキャラクタ同士の掛け合いが、まさに「ラノベ」って感じの楽しさです。

中盤は、比企谷の戦い方がカッコいい

5巻の夏休みの話以降くらいから、比企谷の「ぼっちの戦い方」がカッコよく魅せます。

無駄を省いた徹底的にプラグマティック(実利的)なやり方。「ぼっち力」には相当の自負を持つ私でも彼の戦い方には圧倒されました。


例えば、小学生女子が仲間外れにされている場面がありました。

イケメン葉山くんは彼女に話しかけて仲間に入れるよう誘導するけれど、むしろ逆効果。

一方、比企谷は加害者側を縛っている「みんな一緒じゃなきゃいけない同調圧力」の方を潰しにいきました。

イジメは加害者側に100%原因がある。でも、その背景にはる同調圧力は加害者一人ひとりではコントロールできない。なら、その同調圧力の方を壊せばいい。

狙うべきポイントの見つけ方が「人と違って何が悪い!」というぼっち視点です。

そのやり方自体は感じ悪いものですが、馴れ合いに意味はないという「人間強度の強さ」でやりきりました。

まさに「ぼっちのヒーロー」です。


もう一つの例が、6巻の文化祭の話です。

実行委員が分裂し仕事が進まない状況で、委員長は「強力なリーダーシップ」を求めるけれど、彼女にその力はない。

そこで比企谷が出した対案は「リーダーシップじゃなくて仮想敵」でした。

仲間外れの解決策の裏返しで「外部に異質なものがいる」ことで「同調を強化する」方法を取りました。

古今東西よく使われる手法ではあるのですが、ここでも彼は「ぼっちの人間強度」を活かしてやりきったのです。

比企谷の戦い方は実利的だけど悲しい

比企谷は、単に一番効率のよいやり方をしているつもりでも、周囲にはそれが「自己犠牲的」に映りました。

彼を大切に思う人にとって、そのやり方は辛いものなのです。

その歪みをはっきり示したのが、7巻の修学旅行のエピソードです。

奉仕部は、とある男子から「修学旅行でのグループ女子への告白」を助けてほしいと頼まれます。一方、他のグループメンバーは「今の人間関係を壊したくない」から告白を阻止してほしいと考えていました。

両方の意図を理解してしまった比企谷は、ここでも自己犠牲的な手段で解決を図ります。

結果、グループのバランスを保つことはできたのですが、雪ノ下、由比ヶ浜との間に溝ができてしまいました。


8巻の生徒会選挙のエピソードでは、選挙に担ぎ出された一色いろはが「メンツを保って落選する」方法を求め奉仕部を訪れます。

比企谷としては関係者全員にとって最適な方法を選んだつもりが、結局雪ノ下を傷つけることになり、奉仕部3人の間の溝はさらに深まりました。

9巻、また一色から近隣高校とのクリスマス合同イベントへの支援を求められます。
奉仕部3人の関係に悩んでいた比企谷は単独で依頼を受けました。

真っ直ぐに最適解を求める比企谷は、それぞれの「感情」を読み違えていたのです。

奉仕部顧問の平塚静先生のアドバイスが素晴らしい。

わからないか
なら、もっと考えろ
計算しかできないなら計算し尽くせ
全部の答えを出して消去法で一つずつ潰せ
残ったものが君の答えだ

計算できずに残った答え
それが人の気持ちというものだよ

答えがないからこそ、考え続けるんだ

ぼっちは「人の感情は計算不可能な崇高なもの」と恐れ、だから手を出さないようにしているものです(ソースは自分)。

それならばやはりアプローチは「計算し尽くす」ことなのでしょう。

計算できるわけないけれど諦めずに計算し続ける。それが相手と感情的に関わるなのだと思います。

自分のようなタイプの人間には、ものすごくしっくりくるアドバイスでした。

終盤は、崩壊と再生

お互い腫れ物に触るよう中途半端な奉仕部の3人。

比企谷は、馴れ合いじゃない「ホンモノが欲しい」と訴えます。

彼の感情の吐露が奉仕部メンバー間の壁を壊しますが、結果 3人の関係を明確にすることが意識されました。

3人はそれぞれの方法で「奉仕部を終わらせ」始めます。


11巻以降ラストまで、またもや一式から持ち込まれた「卒業プロム」の話です。

奉仕部は終わりを迎えますが、そこで比企谷のみせる「踏み込み」が、ぼっちの風上にも置けないカッコよさです。

少し前の巻での平塚静先生のアドバイスが、ここでの彼の行動につながっています。

君は、彼女たちを傷つけないために遠ざける、という答えに至った

なぜ傷つけたくないか
大切なものだから、傷つけたくない

でもね、傷つけないなんてことはできないんだ

人間、存在するだけで無自覚に傷つけるものさ

生きていても、死んでいても、ずっと傷つける
関われば傷つけるし、関わらないようにしても、そのことが傷付けるかもしれない

けれど、どうでもいい相手なら傷つけたことすら気づかない

大切なのは自覚だ

大切に思うからこそ傷つけてしまった、と感じるんだ

誰かを大切に思うということは、その人を傷つける覚悟をすることだよ

この辺のセリフ、ぼっちが一歩踏み出すためのバイブルです。

いや、マジで傑作でした。。

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