六法全書 警部補 姫川玲子
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姫川玲子シリーズの短編。
長編だと重くなりがちですが、短編はずいぶんあっさりです。
その分、彼女の「やり方」がノイズに紛れずクリアに見えるのが面白かった。
自殺した男性宅に女性の死体が隠されていた。
この女性は誰なのか、男性はなぜ女性の遺体を隠し続けたのか。
こんな謎に姫川玲子が取り組むお話です。
大抵のミステリで名探偵は「論理的思考」で真相に辿り着こうとします。
ホームズは「すべての可能性を消去して最後に残ったものが真実」だというけれど、ちょっと納得いきません。
すべての可能性を列挙するなんて不可能だし、消去するのだって不可能です。
ミステリはそういう「設定」を楽しむファンタジーだからいいのですが、現実世界でも「論理的に」すべてを解決しようとする人がいるもので、痛々しく感じてしまいます。
いろんな事象を抽象化し論理的に考え、再現性を上げていくのが科学だというのは分かります。でも、人の心や現実世界での出来事まで当てはめることはできないでしょう。現実はもっと複雑で、直線的な因果関係で捉えることはできません。
例えば私が陰謀論とか信じないのは「狙った通り計画通りに物事が動くなんてあり得ない」からです。
どんなに優秀なファンドマネージャーの投資も、チンパンジー(完全なランダム)を超えることができないのも、そういうことなのだと思ってます。
一方姫川玲子は、論理を積み上げるロジカルではなく水平に飛躍するラテラルな方法を取ります。思いつきから始まって検証していくスタイルです。
論理の積み上げで結論を求めることの危うさを逃れ、仮説検証で進めていきます。こちらの方がずっと現実的で効率的。このシリーズはミステリというより警察小説なので、現実に寄せている、ということなのでしょう。
思いつきとはいっても、思いつきに至るには関係する経験や前提知識が必要だし、直線でなく面で受け止める必要があります。
そしてその思いつきに引っ張られずニュートラルに検証する姿勢が不可欠です。
姫川玲子の「思いつき」の凄みは、
・その前提知識は結構地道に蓄積してる
・仮説検証が素早く手数が多い
・反証となるものでも臆せず情報収集する
という部分にありますね。
ロジカルなコナンくんはカッコいいけど真似できない。
姫川玲子スタイルを目指そうと思います。