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おやすみラフマニノフ

おやすみラフマニノフ

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あらすじ

『おやすみドビッシー』に続く岬洋介シリーズ第2弾。

愛知音大でヴァイオリンを学ぶ音大生の城戸晶は、同じく愛知音大に通うチェリストの柘植初音と付き合っていた。

初音は愛知音大の学長で、著名なピアニスト 柘植彰良の孫で卓越した技量を持っていた。一方、城戸は仕送りが途絶えて学費も払えず、退学に追い込まれそうになっていた。

そんな中、大学の定期演奏会で柘植学長と一緒に演奏するメンバーのオーディションが行われることとなる。

メンバーに選抜されれば音楽業界への就職にも有利で、さらにコンサートマスターとなれば奨学生として学費も免除される。さらには数億円の価値があるストラディバリウスのヴァイオリンをを使うことが許されるという。

その頃、岬洋介は臨時講師として愛知音大に勤務していた。
岬の手引きを受け、城戸はストラディバリウスを試奏し、その魔力に憑りつかれる。

必死の取り組みが成果に繋がり、城戸はコンサートマスターの座を射止めた。
また、柘植初音もチェリストとしてメンバーに選ばれ、ストラディバリウスのチェロを弾く機会を与えられた。

ところがその後、ストラディバリウスのチェロが紛失するという事件が起きた。前日夜には確かに保管室に収められたチェロが、翌朝には消えていた。出入口はカメラで監視され誰にも持ち出すことは不可能なはずだった。

2億円超の楽器の盗難にもかかわらず、事件を公にしたくない学校側は警察沙汰にするのを避けた。
だがチェロの盗難に続き、柘植彰良学長が演奏する特別仕様のピアノが壊される事件が起き、徐々に被害が拡大していく。

相次ぐ事件に選抜メンバーの中にも動揺が広がるが、城戸はコンサートマスターとして必死に彼らをまとめようとしていた。

ところが今度は、初音の手が動かなくなる。
現時点で治療法のない多発性硬化症であることが判明し、チェロ演奏は絶望となってしまった。

さらには柘植学長宛てに「演奏会に出場するなら殺す」という主旨の脅迫メールまで届く。学校側は定期演奏会自体を中止しようとしたが、岬の発案で柘植学長以外の人がピアノ演奏をする形で、演奏会自体は実施することとなる。

相次ぐ事件に選抜メンバー内にも疑心暗鬼が広がる。

メンバーの一人が「ピアノの横にあったペットボトルに、意図的に指紋を着けていた」と城戸を糾弾する。

城戸はその糾弾を受け入れた。

罪を受け入れ「最後の演奏」として、ラフマニノフの協奏曲を奏でる。

感想

音楽っていい。
聴く人にも奏でる人にも力を与えてくれる。

前作の『さよならドビッシー』も音楽が重要なキーだったが、本作はそれ以上に「音楽の力」が前面に出てきているように感じる。

洪水で非難している人を勇気づけたり、将来に不安を持つ主人公の背中を押したり、自分を守るため尖っていたピアニストの心を緩めたり、音楽の力で救われるエピソードが満載だ。

一方で「音楽の才能」は残酷なドラマも生む。
圧倒的な才能を持っていた柘植彰良は、親子関係さえ音楽のフィルターを通してしか見ることができなくなっていた。
病によって演奏を取り上げられた柘植初音の悲劇も、音楽の才能ゆえだったといえる。

与えられた才能に真摯に取り組む人には大きなリターンが与えられる。
だがそのリターンの大きさに比例するように、責任とリスクも担わされる。

だからこそ「中途半端に安定を求めず、フリ切って行こう!」という決意が、美しく見えるのだろう。

前作に引き続き面白い。
シリーズ続編を読んでみよう。



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