人間のように泣いたのか? Did She Cry Humanly?
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人がほぼ不死となった数百年後の世界を描く、Wシリーズ10作目です。
あらすじ
キョートで行われる人工知能と人工生命の国際会議でハギリは実行委員を引き受ける。この時代人類は、ほぼ不死となった代わりに、生殖能力を失い人口が少しずつ減っている。その穴を埋めるようにウォーカロンと呼ばれる人工人間が、人間社会に溶け込み始めていた。
この会議では、「ホワイト」という研究機関が人類が生殖能力をとり戻すための研究成果が発表されるとの噂が流れる。
前日になってハギリは上司から「日本政府の意向で、会議での発表前に拘束する」との情報を得る。ハギリは理不尽な計画に強く憤る。
翌日、ホワイトのメンバーが拘束される予定であった控室でハギリはウグイと共に催眠ガスで眠らされ監禁されてしまう。計画を察知したホワイト側の反撃なのか、日本の情報局が踊らされていたのか。
ハギリは拘束され逃亡する間、一緒に行動するウグイに自分の想いを伝えていく。
感想・考察
森博嗣さんの作品の魅力は幅広い。
Wシリーズであれば、未来世界をシミュレートしたSFの発想が面白い。ハギリとウグイの、抑制されたコミカルな掛け合いも、とても楽しい。
だがそれ以上に印象深いのは登場人物たちの「世界観を表すセリフ」だ。アイロニカルなものだったり、ときに人間の本質を突くようなものであったり。
本作であれば、以下のようなセリフが印象深い。
「生きているだけでは不十分、人間は形も自分に近いものに愛着を持つ」というロボット工学の見解を人工知能に語らせるアイロニーは面白い。
「人工知能は悪事は働かず私利私欲もないが、人間に理解できないような演算で、人間には犯罪ギリギリに見えることをするかもしれない」というのは、人が人工知能に対して持つ怖れの本質だろう。
「今でも人間は個人の感情に支配されている。好きか嫌いかで味方か敵を決めてしまう。人間というのは、基本的に戦うことで活路を見つけてきた。勝つこと、生き残ることで、自分たちを確かめてきた」というハギリの言葉は、人工知能も「敵か味方」と単純化してしまう自分たちを揶揄しているものなのだろう。
本作でWシリーズは完結するようだ。延々と終わらないシリーズ物は嫌いなので、結末をつけてくれることはありがたい。
でもハギリとウグイの掛け合いはもっと見たい気がするなぁ。