社会学入門 <多元化する時代>をどう捉えるか
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社会学とは何を目指す学問なのか?
何の役に立つの?
要約
社会学とは「社会的な意味・形式とその変容可能性についての学問」だと定義する。変容する形式を扱う以上、汎用的な「一般理論」を打ち立てることは難しいとしながら、社会学の意義を考えていく。
- 社会学の理論とは
社会学には自然科学のような「基礎理論」「一般理論」がない。社会問題の解決に役立てるためには因果関係の把握が必要だが、一般理論がないと個別の話にしかならない。
また社会学では実験を行うことが難しい。統計的な大量観察と歴史研究で実証しようとしている。
社会科学の中では経済学で「理論の標準化」が進んでいる。社会を個人の集まりとして捉える「方法論的個人主義」をとり、実際にはあり得ないことを認識しながら「合理的経済人」をモデルとして理論を展開させている。
実際には「合理的な思考をするコストをかけることが非合理」であり、人はそれほど合理的ではない。
社会学では「方法論的社会主義」が優勢で、個人的な活動の積み重ねとして見るだけではなく、社会的に共有された前提が必要とされると考える。
また社会学では、家族、民族、国家という実体よりも、社会が持つ意味や形式に着目し、個人も国家も「知識・情報の担い手」としては並列に扱っている。
- 社会学の歴史
17世紀、ホッブズやロックの「社会契約理論」から近代的な意味での「社会科学」が始まるが、方法論的個人主義」に偏っている。これに対しアダム・スミスの「見えざる手」は個人を超えた社会的な力を考慮している。
19世紀半ばにはダーウィンの「進化論」は「意図によらない秩序」というアイデアを打ち出し、自然科学、社会科学の双方にインパクトを与えた。
19世紀後半には芸術の分野で「近代」に対する「モダニズム」が生じ、自然科学・人文科学でも、中身だけでなくその「形式」に着目する動きが現れる。
19世紀後半から20世紀初頭にかけ、デュルケムは社会思想として個人主義を主張した。
またマルクスは、文化などの「上部構造」は「下部構造」である経済に支えられていると考えたが、ウェーバーは「上部構造」である宗教などが実体経済に影響を及ぼすという理論を提唱した。「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」では「プロテスタントの禁欲(勤勉さ)が合理主義を促進し、資本主義を進展させた」と解釈している。
- 多元化する時代と社会学
社会学は「社会における形式の変容可能性」について学問である以上「不変の一般法則」を立てることは難しい。「形式」は色々可能性があることを考えると、未来を予測するのに役立てることは難しくなる。
社会に「根本的な課題」があるわけではなく「性質の異なる様々な問題が互いに影響しあっている」というのが実態。経済学で「合理的経済人」を想定したように、ある程度で割り切ってしまうか、絶えず「異化」を繰り返していく手法しかないと考える。
感想・考察
様々な分野を扱う「社会学」の中身ではなく、その歴史や理論についての総論。
経済学などの「実学」 は「いかに実際に役立てるか」という点を重視し、理論的にはある程度妥協をしても現実的な解をひねり出す。一方社会学では「変容の可能性」を重視するため、未来予測には慎重になってしまう。
大学生への社会学入門の講義内容をベースにしたということだが、入門で「社会学の立ち位置は難しい」というのは中々シビアだ。。
それから本書は、生物学やコンピュータサイエンスなど、分野を横断した話や、巻末の関連書籍紹介が面白かったりする。