ヴェニスの商人
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「古典の翻訳ものは読みにくい」
そんな先入観を打ち破る面白さでした!
あらすじ
ヴェニスの貿易商であるアントニオは、親友のバサーニオの求婚を助けるべくお金を用立てようとする。
だが、アントニオの資産は貿易船の貨物になっていて手元に現金はなかったため、船がヴェニスに届くまでの間、ユダヤ人の金貸しシャイロックに借金を申し込む。
高利貸しとして蔑まれていたシャイロックは「期限内に返せなかった場合はアントニオの肉一ポンドを抵当として受け取る」という証文を作り、金を貸した。
バサーニオはベルモントに住む貴婦人ポーシャに求婚しポーシャの亡き父の遺言である選別試験をクリアして、二人は結婚することとなる。
ところが、アントニオの船が全て難破し、シャイロックからの借金を返すことができず、約束通り「肉一ポンド」の支払を求められる。
ヴェニスの大公も シャイロックの申し出は非倫理的と感じてはいたが、法制度への信頼がヴェニスの商業都市としての繁栄の基礎であることから、約束の執行を防ぐことができなかった。
ポーシャはバサーニオに十分な金を渡しヴェニスに戻らせ、自分も男装して「法律学者」として密かにヴェニスに赴いた。
法律学者に扮したポーシャは、シャイロックが「肉一ポンド」を取ることは認めたが、抵当になっているのは「肉一ポンド」だけなので「血は一滴も流してはいけない」として、シャイロックの要求を退けさせた。
感想・考察
古臭さが全くなく、今読んでも本当に面白い。凄いことだ。
16世紀末の当時、キリスト教徒とユダヤ教徒の対立があり、また金融業へのやっかみから、ユダヤ人への反感が広くあったのだろう。
シェイクスピアも、そうしたユダヤ人のステレオタイプなイメージに乗ってはいるが、ユダヤ人側の心情描写も混ぜることで、単純な勧善懲悪ではなく、多重的な見方をしている。
何人もの役者がでる演劇の脚本だったからだろうか。視点の切り替わりが繰り返され、脇役の目線も含めて、ストーリーが立体的に描かれる。
一面的な価値観による勧善懲悪ストーリーであれば「数百年前の異国の道徳」に馴染めなかったかもしれないが、様々な視点で、コミカルにシニカルに描かれるので違和感なく受け入れることができたのだろう。
また、翻訳ものによくある情景描写のまどろっこしさとか、セリフの伝わりにくさが全くない。訳者の技量も素晴らしいと感じた。