カササギ殺人事件
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アガサ・クリスティーの時代と現代。
二つの世界がリンクする多重構造ミステリ。
あらすじ
女性編集者のスーザン・ライランドが、アラン・コンウェイから送られた新作ミステリの原稿を読み始めるところから物語は始まる。
上巻はアランの作品「カササギ殺人事件」の中の世界。
1950年代のイギリスの田舎町で家政婦メアリが階段から転落して死亡する事件が起きた。メアリと息子のロバートが自己の数日前に口論しており、ロバートによる殺人なのではないかと疑う村人もいた。ロバートの婚約者ジョイは彼の容疑を晴らすため名探偵アティカス・ピュントを訪れるが、アティカスは末期脳腫瘍もあり断ってしまう。
その数日後、メアリの雇い主だったマグナスが殺される事件が起きる。ジョイの依頼を断ったことを気にしていたアティカスは現場に乗り込み、最後の事件として解決に乗り出した。
メアリは村人の秘密を嗅ぎまわっていて誰かの恨みを買っていた可能性があった。彼女の死は事故なのか何者かに殺されたのか。マグナスも傍若無人な振る舞いで周囲から嫌われ、村人の多くが動機を持っていた。
アティカスが犯人に気づき、解決編に入る直前で上巻は終わる。
下巻でスーザンは「カササギ殺人事件」の最期の部分が抜けていることに気が付く。そしてその夜、作者のアランが死んだことを知る。
スーザンの上司で出版社社長のチャールズ当てにアランから、末期のがんを患っていたことを伝え、自殺を仄めかす手紙が届いていた。
スーザンは「カササギ殺人事件」の結末部を求めアランの家を訪れるが、そこで周囲の人の話を聞き、彼は殺されたのだという確信を深め、自ら捜査に乗り出した。
小説内のマグナスと同じく、アランを殺す動機を持つ者も数多く調査は混乱したが、最後に「カササギ殺人事件」の謎と現実世界の事件が同時に解決される。
感想・考察
作中作の「カササギ殺人事件」はアガサ・クリスティーのオマージュのような、1950年代の古風なミステリだ。現代を舞台とした下巻もミステリとしては古典的な展開だが、二つの世界がリンクし、現実世界の事件の鍵が小説内にあるという仕掛けは面白い。アナグラムや言葉遊びの部分は翻訳で完全に理解することはできないが訳者の力量もありそれなりに楽しめた。
また翻訳も素晴らしい。
翻訳ものミステリは誰が何を言っているのか分からなくなりがちだが、本作は登場人物が多く、名前にも仕掛けがあって混乱しやすく、二重構造のストーリーも複雑なのに、すんなりと頭に入ってきた。翻訳の力量が相当高いのだろう。
アナグラムを始めとした言葉遊びは難しかったと思うが、それでも破綻することなく理解できるように伝わってくる。
ミステリ作品の翻訳家というのは面白そうだ。