神様のカルテ3
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あらすじ
「神様のカルテ」シリーズ第3作目。
24時間365日対応をうたう 本庄病院で働く栗原一止が語る医療小説。いくつかの小さいエピソードを通して、医療倫理や医師の勤務状況の過酷さを説く。
アルコール性肝炎による脳症で倒れた患者が、病院を抜け出してまで金魚すくいを出そうとしたのは何故なのか、というエピソード。
一止を支える主任看護師の東西さんが、かつて思いを寄せていた男が入院して戸惑う姿を見せる話。
最先端医療の研究を行う病院から来た先輩女医の小幡と、彼女はアルコール中毒患者への措置で意図的に手を抜いているのではないかと疑った一止たちの衝突。
膵臓癌の疑いで大規模な開腹手術を行い成功したが、術後の病理検査で腫瘍が良性だったことが判明し落ち込む一止。
等々、いくつものストーリーが重なっていく。一止と妻のハルが切り取る信州の風景の凛とした美しさや、御嶽荘の住人たちとの交流の暖かさ が、暗く沈みがちな病院の話を優しくしている。
感想・考察
シリーズ1作目では「大学に入り最新の医療を学ぶか、地域病院の医師として他に頼れない患者を支えるか」の二択で迷い、その時点では患者に寄り添う道を選んだ。
2作目では幼子を抱える同期医師との関わりから、医師の労働環境の過酷さについて問題提起していた。
3作目となる本作では、知識不足から病気を見逃してしまった自分を許せず、限界まで貪欲に最先端医療を学び続ける先輩医師の姿を見た一止が、今度は「大学で最先端医療を学びなおす」道を選択する。そこには作者自身の思いの変化もあるのだろう。
登場人物がそれぞれ違う良心を抱きながらも、それぞに真摯に生きようとしている姿勢に心打たれ、「お前もしっかり生きよ」と鼓舞されている気持ちになる。
2作目から引用されているセオドア・ソレンソンの「良心に恥じぬということだけが、我々の確かな報酬だ」という言葉が、徐々に沁みてくる。医療倫理だけでなく、日々の生活を真摯に生きることを後押しするような言葉だ。