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ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存

ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存

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要約

数十年に渡ってその会社の主力製品のライフサイクルを超えて繁栄している「ビジョナリー・カンパニー」18社を選定し研究する。

ビジョナリー・カンパニーとして挙げられたのは、以下の18社。
3M、アメックス、ボーイング、シティーコープ、フォード、GE、HP、IBM、ジョンソン&ジョンソン、マリオット、メルク、モトローラ、ノードストローム、P&G、フィリップモリス、ソニー、ウォルマート、ディズニー

これらの企業に共通し、比較対照群にない特徴として以下の4項目が見つかった。

時を告げるより時計を作る
カリスマ性を持った指導者や優れたアイデアによるヒット商品は、長期繁栄するビジョナリー・カンパニーの条件にはならず、むしろ逆相関する。
傑出した成果を上げる「人・モノ」よりも、成果を上げ続ける仕組みを作ることが大事だ。

成果を上げ続ける仕組みの根幹となるのは「基本理念」
その理念が「正しい」かどうかは環境によってとらえ方が変わり重要ではなく、どれだけ深く信じているかが大切。
時間が経っても変わらない基本理念を本気で徹底させることが、企業を長期に渡って反映させる最大の条件だ。

「ORの抑圧」から逃れ「ANDの才能」を活かす
ビジョナリー・カンパニーは「価値観を大切にする理想主義か、利益を追求する現実主義か」「低コストか、高品質か」、「自主性を重んじるか、管理を徹底するか」といった、二者択一の考え方を取らず、どちらも達成する方法を模索している。

基本理念を維持しながら、進歩を促す
基本理念は不変のものとして維持しながら、それを実現する手法は柔軟に変えていく。
大きな目標をぶち上げて引っ張っていく手法、多くのことを試し良いものを残す進化論的手法などが取られている。
また、現状に満足せず常に向上心を持ち続けるように、アメとムチを駆使している企業も多い。

一貫性を追求する
ビジョナリー・カンパニーは、基本理念を貫くことには徹底している。
採用時の選別から、入社後の研修、評価査定にいたるまで「基本理念」をベースにしている。
ある意味カルト的な求心力の強さで、合う人には最高の環境だが、合わない人には全く合わず、入社直後の定着率が低い起業も多い。
また基本理念の継承を大事にするので、長期に渡り計画的に経営陣後継者を育成している。ビジョナリー・カンパニーで外部からCEOを登用するのはまれ。

感想・考察

エッセンスだけをまとめると上記の4項目でシンプルだが、実際に本書ではビジョナリー・カンパニーや対照群企業での実例やエピソードがてんこ盛りで、しつこいほどに繰り返されることで強く印象付けられる。

「そういえば以前、会社が急に『○○フィロソフィー』とか言い出して布教活動を始めたのは、これに影響されてたのか」とか、「あの時のコンサルの話はこれが元ネタね」という気づきがあるので、一般教養として読んでおいて損はないと思う。

個人的には「組織が永続すること」自体には価値は感じない。
従業員や顧客、サプライヤー、地域住民などのステイクホルダーに、どれだけの利益を提供できるかというアウトプットに意味がある。

「基本理念が正しいものである必要はない」と著者はいうが、やはりその時点で最大限「良いもの」であろうとする必要はあるだろう。そして「良い」は立場や環境によって変わっていくものだ。
だが、そんな外部環境による相対的な「基本理念」では会社を引っ張っていくことはできない。会社の中では一貫した理念を維持しなければ成果は出せないのだろう。

であれば「良い」が変わるにしたがって、会社自体が世代交代することが健全なのだと思う。

例えば Googleなどは本当に素晴らしい起業だと思う。
最近Adsenseの審査に通ったとか Youtubeが収益化できたらいいなと思っているから媚びを売るわけではなく、Google は優れた理念を持ち、過去の市民革命数回分のインパクトを平和裏にもたらしている卓越した企業だ。本当に素晴らしい起業だと思う。
だがそれでも、今後数十年に渡りGoogleが更に支配力を強めていくと思うと、どうしても怖い。

本書が挙げている4つのエッセンスは、個人や小規模集団でも活用できるところがあると思う。世代を超えた長期繁栄ではなく、個人レベルでの長期継続のため「ビジョナリー・フリーランス」的な考え方をしても面白いかもしれない。

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