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掟上今日子の家計簿

掟上今日子の家計簿

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あらすじ

一日しか記憶がもたない「忘却探偵」掟上今日子シリーズ 第7弾。
今回は男性刑事から依頼を受ける4つの短編集。

掟上今日子の誰がために(クイボノ)
「雪に閉ざされたペンション」という典型的なクローズドサークルの舞台で殺人事件を解決するため、御簾野警部は忘却探偵 掟上今日子に依頼する。
外部から遮断されていたため犯人は宿泊客かペンションの従業員に限られるのだが、殺された女性がそのうちの誰かから恨まれるようなこともなく動機が不明だった。
「クイボノ―誰が利益を得たか」から考えた掟上は、救われない真相に思い至る。

掟上今日子の叙述トリック

ミステリ研究会のメンバーが合宿で殺されるという、これもお約束のシチュエーション。グランドピアノで殴られ死亡した被害者は、持っていたスマホで叙述トリックの傑作と言われる「xyzの悲劇」の電子書籍を開いていて、これがダイイングメッセージではないかと考えられていた。
ミステリに不慣れな二々村警部は掟上に叙述トリックの講釈を求める。

掟上今日子の心理実験

地下室に監禁されていた男が殺害された。その部屋は電子錠でロックされており、死亡が推定される時間内には誰も入室していないことが記録されていて、ある意味密室殺人だった。
百道浜警部は掟上に怖れを感じながらも、事件の解決への助力を申し出る。

掟上今日子の筆跡鑑定

殺人事件の被疑者は、当該時刻に遊園地の脱出ゲームをしていたというアリバイを主張していた。脱出までに少なくとも1時間半はかかるというゲームだったが、1時間以内でクリアできるのであれば、アリバイが崩れる可能性があった。
遊佐下警部は、最速を誇る掟上にその脱出ゲームを最短はどれくらいの時間でクリアできるか検証して欲しいと依頼した。

感想・考察(ネタバレあり)

特に2話目の「掟上今日子の叙述トリック」はガチで考えさせられる。
叙述トリックは不意打ちを受けるから面白いのであって、タイトルに叙述トリックと明示していしまうのはいかがなものかと思ったが、想像以上の出来だった。
以下はネタバレ考察。

ということで「掟上今日子の叙述トリック」は、犯人当ての体でありながら、犯人を指摘せずに終わるという、独特な終わり方をしている。
提示された情報だけで犯人を特定できるのか、検討してみたいと思う。

計算機アプリにメモリされた数字の羅列は「xyzの悲劇」を座標と見立てて文字をピックアップするための鍵だと考え、拾っていった。
その結果「あまりにも意外な犯人だった」として、誰であるかを明示せず終わってしまう。

まず登場人物リストにいる10人は以下の通り。
樫坂大学推理小説研究会
 千良拍三(ちら・はくぞう)-被害者
 美女木直香(びじょぎ・なおか)
 夥田芳野(おびただた・よしの)
 大隅真実子(おおすみ・まみこ)
 石林済利(いしばやし・なりとし)
寿々花大学軽音楽部
 雪井美和(ゆきい・みわ)
 里中任太郎(さとなか・にんたろう)
 益原楓(えきはら・かえで)
 殺風景(ころかぜ・けい)
 児玉融吉(こだま・ゆうきち)

「xyzの悲劇」というのは架空のミステリであり実在しないので、数字の暗号を元に実証することはできない。

暗号からわかるのは「おそらく5文字」であるということだ。

だが、登場人物リストの中で5文字となるのは、
かな読みフルネームなら「ゆきい・みわ」1人。
漢字表記フルネームなら「美女木直香、大隅真実子、里中任太郎」の3人。
かな読みで姓か名の一方なら「おびただた、いしばやし、にんたろう」の3人。
と複数いるので、これだけでは特定できない。
人物紹介でわざわざかな表記をしているし、手元にない本の文字の位置を正確に覚えるのには限度があり、漢字まで含めていたというのは考えにくいので「ゆきい・みわ」の可能性が高いとは思うが、決定打とはならない。

また「あまりにも意外な犯人」といっているが、登場人物リストにいる人物は被害者以外すべて犯人の可能性があると認識していたので、この中の人物ではない可能性も捨てきれない。
さらに、二々村警部が登場人物リストを書いたのは掟上の「右腕」だったが、暗号解読時に掟上が見ていたのは「左腕」だったという点も少し引っかかる。

解決時に「ノベルズのあちこちからピックアップし、左手に自ら叙述した文字の並びを見て」とあり、これを素直に読むとピックアップした文字を左腕に書きこんでいったように思われる。
だがそれ以前に「左腕に書けるだけ書いて」いたので新たに書き込むことはできなかったはずだ。
それであれば「左腕にあった登場人物リストの人名以外の情報」から犯人を突き止めたということになる。

掟上は「叙述トリックその⑬」で「人数の誤読」をミスリードする手法について語っている。また二々村警部の「犯人は登場人物紹介票の中にいると考えて、およそ間違いないはずだ」という発言に対し、掟上が「曖昧な言い方だと叙述トリックを勘繰られてしまいますよ」と突っ込んでいることも、犯人がリスト外の人物だという伏線である可能性もある。

とはいえ、管理人とか「まったく名前の挙がらなかった人物が犯人でした」というのは、ちょっと腑に落ちない。
掟上の左腕に名前が書かれていることが明示されているのは、被害者の「千良拍三」と「xyzの悲劇」作者である「岸沢定国」くらいだ。どちらも「意外」ではあるが、納得いくストーリーにするのは難しそうだ。そのほかに名前が書かれているのは「掟上今日子」と「二々村警部」で、こちらも「意外」だが叙述トリックだとしても地の文で嘘をつけないなら無理筋だ。

可能性としては
① 5文字の「ゆきい・みわ」が犯人。面識ないはずの他大学の人間が犯人だったから「意外」だと考える。
②叙述トリックとして「人数の誤読」を使い、名前の挙がっていない管理人などの人物が犯人だったと考える。

のどちらかだろうか。
もう少しゆっくり考えてみたい。

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